29Lib 分館

図書館・情報学関連の雑記、読書ノート、音楽ノート、日常生活の愚痴など。

「フリーターには心の問題あり」とのこと

2010-05-30 11:40:31 | 読書ノート
海老原嗣生『学歴の耐えられない軽さ:やばくないか、その大学、その会社、その常識』朝日新聞, 2009.

  大学卒の雇用のミスマッチについて議論する著作。データに基づいた論証が大部分で、説得力がある。リクルートで人材マネジメントを行ってきた著者は、漫画の登場人物のモデルにもなった人らしく、そのスジでは有名らしい。だが、漫画を読まない僕には初めて知る人物。

  全体の内容については多くの書評があるようなのでパス。気になった次の点だけにコメントしたい。

  著者は、大学文系の教育に対して、社会人養成カリキュラムを採りいれることを提言している。「不況で企業側がOJTを出来なくなっているため、大学がそれに相当する訓練をすべきだ」というのは、最近の風潮のようであり、僕としてはそういうものだとして受けとめている。

  ただ、著者の提言は“「地誌」「ビジネス英語」「簿記」「税務」「価格理論」「マーケティング」「労働法」「商法・会社法」「特許法」「給与・社会保険・年金計算」(以下略)”(p.76)と具体的な知識内容であることだ。現在いくつかの大学で行われている、一部のゼミ生による企画のマネごとのような「社会人教育」とも、マナーや会話方法を教えるようなコミュニケーション能力育成とも大きく異なっている。

  尋ねたいのは、著者が挙げた教科の成績を、採用側企業は重視しているか、ということ 企業はそのような知識を求めているのか? 実際、学生のコミュニケーション能力を向上させるよりは、パッケージとしての知識を伝授する著者提言の方が大学にとって楽である。前者の訓練プログラムを作ることは難しいが、後者は講義の中におさまる。

  教科内容が実務的だろうがそうでなかろうが、採用側は無関心であるように見えるのだが、違うのだろうか? それとも上記教科が文系学生を序列付けるシグナルとして機能すれば、ミスマッチが起こり難い、ということなのだろうか?


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哀愁味ある曲を激しく演奏し冷たく録音した

2010-05-27 17:24:50 | 音盤ノート
Kenny Wheeler "Double, Double You" ECM, 1983.

  モード系のジャズで、トランペットまたはフリューゲルホーン(Wheeler)、テナーサックス(Michael Brecker)、 ピアノ(John Taylor), ベース(Dave Holland)、ドラム(Jack DeJohnette)のクインテット編成。Wheelerのアルバムは演奏もさることながら、“オリジナル曲を聴く”という楽しみ方もある。彼の作る独特の哀愁感を湛えるメロディーは美しい。しかしながら、DejohnetteとBreckerという名手を揃えたこのアルバムは、ソロを聴くべきオーソドックスなジャズアルバムとなっている。

  BreckerとDeJohnetteはいつも通り冴えており、Hollandも巧いが何が魅力的なのか僕にはわからないのがいつもどおり。ただ、John Taylorはこのメンツの中では十分活きていないような気がする。四曲目でやっと彼らしいソロを聴かせるが、他の曲では品の良いピアノを聴かせるだけに終わっている。その点は不満だが、御大Wheelerに関しては曲・ソロともに素晴らしく、全体としてはかなり優れた作品である。

  繰り返すようにWheelerの作品の中ではオーソドックスなジャズ・アルバムであり、彼を初めて聴く人には良いのではないだろうか。
  
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同じ著者のブルーバックス二冊。一方は良書だが・・・

2010-05-25 17:23:41 | 読書ノート
志村幸雄『誰が本当の発明者か』ブルーバックス, 講談社, 2006.
志村幸雄『世界を制した「日本的技術発想」:日本人が知らない日本の強み』ブルーバックス, 講談社, 2008.

  ブックオフで安く入手できたので、技術ジャーナリストによるブルーバックス二冊を読んでみた。

 『誰が本当の発明者か』は、発明の背景や繰り広げられたライバル間の駆け引きがわかって面白い。発明と改良の境界はあいまいであり、発明者の考案に先行している技術をどう位置づけるのかは難しい問題のようだ。自動車や白熱電球、コンピューターなどはその例である。また、技術の発明者ではないのに、発明者かのように名声を得た例もある。映画におけるリュミエールや水力紡績機のアークライトがそう。彼らはビジネスモデルの発明者とした方がいいのだろう。全体として、慣れ親しんだ技術により深い愛着を抱かせる一冊。

 『世界を制した「日本的技術発想」』はいわゆる日本文化論である。こちらは、説得力があるとは言い難い。著者は、世界の工場として中国が台頭し、日本の経済的地位が衰退を迎えている現在でも、日本の技術は世界最高水準だと説く。しかし、それはそうだとしても、日本の技術が市場で支持を受けるかどうかはまた別の話であるから、日本経済が安泰だとは言えないだろう。また、希望的観測が多かったり、その説得力について疑問が出ている李御寧(縮み志向)に依拠して論理を展開していたりして、議論に難がある。日本への賛辞を喜ぶナショナリストならともかく、公平な観察者にはやや偏りがあると感じられる記述である。
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打楽器乱打に静謐なピアノのミスマッチ

2010-05-23 23:26:37 | 音盤ノート
Brad Mehldau "Largo" Warner, 2002.

  ジャズピアノ作品。ポップ系のJohn Brionをプロデューサーに迎えての録音。オリジナル曲の他に、The BeatlesにRadiohead、Antonio Carlos Jobimの曲を演奏している。ドラムは完全にロック系 (Matt Chamberlain)である。

  どの曲もアレンジが秀逸で、ジャズ作品なのにソロの出来を気にせずに聞かせてしまう。この点が、作品の発表当時、普段ジャズを聴かないようなロックファンにも歓迎された理由だろう。

  だが、ジャズにおいてはソロが重要。Mehldauのソロは、上手いし綺麗だが、いま一つ本音が見えないというか、情熱を感じさせない。この編成なら、もう少し下品に弾いてもいいのではないかと思わせるが、そうならないのが歯がゆい。

  しかしながら、同じプロデューサーによる新作"Highway Rider"(Nonesuch, 2010)を耳にしてみると、Mehldauの意図がなんとなく分かってくる。それはポップ寄りの音楽を演るということではなく、ソロが中心ではない・アレンジで聴かせてしまう音楽を作りたいということなんだろう。

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グラノベッターのweak tiesは日本でも活きるという議論

2010-05-20 10:32:08 | 読書ノート
メアリー・C.ブリントン『失われた場を探して:ロストジェネレーションの社会学』池村千秋訳, NTT出版, 2008.

  米国人研究者による日本の若者研究。特に1990年代以降の男子高卒者に焦点をあてている。著者は、制度的な採用ルートが壊れてしまっているため、これからの日本の若者は弱い紐帯(weak ties)を形成して、社会を泳いでゆくことが必要だと主張する。

  1990年代以前の日本では、高校と企業の間に信頼関係が形成されており、就業ルートが確保されていたという。若者にとっては、仕事の選択肢が少なくなるというデメリットの一方で、学校から職場にスムーズに移行できるというメリットもあった。しかし、こうした環境は1990年代に無くなった。進学校ではない高校生の多くは、正規雇用先を見つけられないまま=「「社会人」になる契機を見つけられないまま」卒業してゆくという。不景気による採用減があり、特に男子高卒者を多く受け入れてきた製造業が衰退したためである。

  以上の経過をデータで見せていることが新しいとはいえ、日本人読者にとっては予想の範囲内だろう。しかしながら、米国との比較は面白い。

  山岸俊男の研究1)を引いて、他者を信頼できるかどうかを判断することに関して、日本人より米国人の方が巧みだと推定している。日本人は他人を判断できないからこそ、制度的枠組み──著者は"場"と呼んでいる──がもたらす信用に頼る。一方、米国人は個人に対する判断力に頼って、弱い人間関係を形成・維持することができ、その関係の中で仕事を見つけることができる。

  アルバイトの違いも面白い。日本の高校生アルバイトといえば、企業によるものが一般的で、職場は家族や学校での教員との関係から分離されている。つまり、保護してくれる大人の監視外にあり、企業に搾取されやすい。一方、米国の高校生アルバイトは、ベビーシッターなどが中心で近隣の知己の範囲内で行われる。また、正規雇用の採用において、日本企業は学校による人物評価を信用することができるが、米国企業はそれに頼れないので、米国ではアルバイト経験は肯定的に評価されるらしい。しかし、日本でアルバイトと言えば「学業をさぼってやるもの」のように見られる。

  しかしながら、現在の日本では企業が高卒者を評価しなくなり、高校がもたらす信用の力も衰えた。そこで、著者は学校に頼らず、就職または転職をした日本の若者三人を例に挙げ、今後は制度に頼らない生き方を推奨する。そのために、仕事を見つけるのを容易にする弱い人間関係を形成・維持する能力が必要だとしている。

  以上。長いコメントはもう少し考えてからにする。

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1) 山岸俊男『安心社会から信頼社会へ:日本型システムの行方』中公新書, 中央公論新社, 1999.
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食糧生産の現場を淡々と

2010-05-18 09:39:05 | 映像ノート
DVD『いのちの食べかた』ニコラウス・ゲイハルター監督, 新日本映画社, 2008.

  2005年、ドイツ・オーストリア制作のドキュメンタリー映画。食糧生産のための、農場、飼育場、温室、トラクター、工場などを引き気味のカメラで捉える。食肉加工場ではかなりグロいシーンもある。登場人物はいるが、特に名前も与えられず、作業をしているだけ。全体として何かを訴えかけるような作品にはなっていない。ただただ、食糧生産のための仕事を淡々と写しているだけである。

  これを見て痛感するのは、現代の農業・畜産が「生命のふれあい」みたいなものでは全然無いこと。天候に左右される農家の悲喜劇なんてものは無く、かわりに自然を完璧にコントロールした大規模農園がある。豚や牛の食肉加工場は、かなり快適かつ衛生的な印象で、悲惨な印象はみじんもない。この映画での農業・畜産とは、大量生産のために退屈なルーティンをひたすら続けている世界である。基本は工業生産とは変わらない。「土いじりの喜び」を現代農業に投影するのは間違いなんだろう。
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三十路男が入れるのは『マリー・アントワネット』のサントラまで

2010-05-16 22:41:35 | チラシの裏
  静岡市内の商店街を歩いていたら「シズオカ×カンヌウィーク」のための企画に出くわした。映画関連の書籍を置いたカフェや、フランスとは無関係だがどこかヨーロッパっぽいところのある静岡市内の洋菓子屋による出店が中心である。立て看板が、国際映画祭で有名なカンヌと静岡は姉妹都市らしいことを訴えているが本当だろうか?

  関連上映のプログラムには正直驚かされる。21日~23日の三日間で『マリー・アントワネット』『8人の女たち』『ショコラ』『パリ・ジュテーム』の四本だけ。うち二つがアメリカ映画(フランスが舞台だけれども)。東京・大阪での企画ならばこういう選択はしないだろう。ゴダールとかトリュフォーでは古すぎるのか? 静岡市は映画都市というわけではなく、人口規模も大きく無いので、このクラスの映画でないと客が入らないのかもしれない。それにしても女性向けすぎ、カップルじゃないと行きにくいなあ。野郎どものためギャスパー・ノエとか『変態村』とか・・・誰も来ないか。

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シズオカ×カンヌウィークHP http://www.cannes-shizuoka.jp/
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音がいいとは言えないけれども貴重なライブ録音

2010-05-15 10:37:54 | 音盤ノート
Lonnie Liston Smith "Live!" RCA, 1977.

  レアグルーヴ系のジャズ。彼の全盛期は、レコード会社としてはFlying DutchmanからRCA時代(1973-77)だが、このライブ録音も緊張感のある演奏を披露している。

  曲のほとんどは"Expansions"(Flying Dutchman, 1974)と"Visions of New World"(Flying Dutchman, 1975)から。スタジオ録音に比べると、ややテンポが早いことと、ギターやベースがソロを採る場面があることが違うが、大きく印象を変えるような変化はない。4thからの"Visions of New World"は演奏時間が長くなり、切迫感のあるエレクトリックピアノをたっぷり聴かせる。スローバラードも4曲収録されているが、そこでもSmithのピアノは完璧な美しさである。

  このバランスは、この後のColumbia移籍後に崩れてしまう。テンポの早い曲にあった緊張感が消え、単に心地がいいだけのフュージョンに変わってしまった。残念としか言いようがない。

  
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酸素の採り過ぎは老化を早めるそう

2010-05-14 22:47:38 | 読書ノート
近藤祥司『老化はなぜ進むのか:遺伝子レべルで解明された巧妙なメカニズム』ブルーバックス, 講談社, 2009.

  老化のメカニズムに関する諸説を解説した書籍。複数の仮説が同時に成立するらしく、一つの原因に収斂させることは難しいらしい。また、老化の原因物質だと思われているものが一方で老化を遅らせたりすることもあるらしく、ややこしい世界である。とりあえず自分の老化を遅らせたいと考えている向きには、1・2・10・11章を読んでおくといいだろう。イソフラボン、コエンザイムQ10などサプリメントの摂取の効果について説明しているから。
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心理学からみた「影響力」の教科書として

2010-05-12 21:56:56 | 読書ノート
今井芳明『影響力:その効果と威力』光文社新書, 光文社, 2010.

  影響力について分類し、心理学の知見から解説した著作。賞罰や権威などを利用するような、資源にもとづいて相手の行動を操作しようとする場合だけでなく、何も資源を持たない者からの影響も扱っている。後者は、噂話などに影響されるケースである。記述は硬めだが、最初の分類がうまくいっているので、よく整理されている印象。さらに、索引と引用文献リストも整備されており、新書ながら丁寧に編集されている。
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