29Lib 分館

図書館・情報学関連の雑記、読書ノート、音楽ノート、日常生活の愚痴など。

ジャズ界のヴィジュアル系(ちょっとちがった意味で)

2009-10-28 13:11:34 | 音盤ノート
The Art Ensemble of Chicago "Full Force" ECM, 1980

  フリージャズ。ボディペインティングを施し、民族衣装を着るメンバーの見た目の派手さ。ステージに配置された大量のパーカッション。曲を聴く前にこのような情報が入るので、アグレッシブな演奏を期待して彼らのアルバムを聴いてしまう。のだが、ほとんどのアルバムが地味で静かであることに期待を裏切られる。

  AECのパリ時代から1980年代半ばまでのアルバムをフォローしているが、そのほんとどは静かなフリーの曲、Charles Mingus風の暗い湿ったモード曲、チンドン屋風の間の抜けた曲のどれかで構成されている。率直に言ってかなりテンションが低い。

  ただし、このアルバムだけは例外。特に一曲目の"Magg Zelma"。20分にわたる演奏で、前半は静かなフリー、中盤はモード曲、終盤で攻撃的なフリーへと展開する。そのうち特に中盤が素晴らしい。切り刻むようなベースラインの上に、今は亡きLester Bowieのトランペットが叩きつけるように鳴らされる。聴き手のアドレナリン量を昂進させること請け合い。他の曲も、いつもよりは整理されており比較的聴きやすいだろう。

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アーキテクチャの有効活用

2009-10-26 09:33:29 | 読書ノート
リチャード・セイラー, キャス・サンスティーン『実践行動経済学:健康、富、幸福への聡明な選択』遠藤真美訳, 日経BP, 2009.

  前回の続き。今流行りのアーキテクチャ論では、アーキテクチャによる・合意の無い「自由の規制」が問題視されてきた。この本は逆の論陣を張る。アーキテクチャによる人々の行動の方向付けは、バイアス無き選択の自由がある世界よりも幸福を増大させることができる。なので、積極的に活用しましょうというわけだ。著者らは、この立場をリバタリアン・パターナリズムと称している。

  人々の行動をコントロールすることに対する肯定の根拠には、人はそれほど合理的には行動しないという行動経済学の知見がある。だが、そこは中心ではなく、多くの場合、個人が貯金に失敗したり、もっとも優れた年金プランの選択に失敗するということは議論の前提となっている。そこで、政府が最良の選択肢へと「誘導する」ように制度を設計しておけば、選択の間違いによる不幸を削減できる。もっと言えば、福祉プログラムなどにかかる費用を減らすことができると考えているようだ。

  疑問はたぶん誰もが思いつくもので、政府が事前に最良の選択肢を把握できる能力があるのだろうか、ということだ。しかし、本書で挙げられている例のように、政府がその能力を持つと言えそうな領域もあるだろう。公共図書館の存在理由も、僕の分野では長らく権利論で理解されてきたが、情報空間に対するアーキテクチャの一つとして把握した方が筋が通るのかな、という感想を、図書館屋として持つ。

  ただし、この本で言うアーキテクチャは『CODE』に出てくるような有無を言わさないものではなく、優先順位に関してバイアスを与えるという程度にすぎない。その推薦された優先順位を無視することは可能なので、かなり弱い「アーキテクチャ」概念である。
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人間の、法を回避したコントロール

2009-10-23 09:33:14 | 読書ノート
ローレンス・レッシグ『CODE VERSION 2.0』山形浩生訳, 翔泳社, 2007.

  初版の翻訳は2001年。これは第二版だが、その一刷は誤植が多いので気を付けるよう(翻訳者による訂正表あり1))。

  内容はインターネットの利用規制に関するもの。企業は、法による規制よりも、アーキテクチャを使って選択の自由を制限し、インターネット利用をコントロールしている。法については議論ができるが、アーキテクチャは壁のように意識されない存在で、議論の俎上にのせにくい。しかし、それは確実にわれわれの自由を制限している。したがって、アーキテクチャについて反省する機会を持つべきだ、こんな主張が含まれていたと思う。

  アーキテクチャそれ自体を選択の対象として、民主的討議をするべきだというわけだ。インターネットについて詳しくないので、その是非についてあれこれ言うことは控える。だが、この著者と逆のことを考える本を見つけた。アーキテクチャを使ってガンガン人を誘導しよう、そしてそれは善だと。これはそのうちに。

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1) 山形浩生, Lessig "CODEv2" Japanese Errata
  http://cruel.org/books/codev2errata.html
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理不尽な理由で改名を余儀なくされたとのこと

2009-10-21 08:14:59 | 音盤ノート
Manitoba [Caribou] "Start Breaking My Heart" Leaf, 2001.

  エレクトロニカ。ポップ/ロック的な方向に踏み出した次作の"Up in Flames"(2003, Leaf)の方が評価は高いようだが、このアルバムの正統なエレクトロニカ路線の方を、個人的には気に入っている。

  収録はインスト曲のみ。生ドラムや、ガムランやビブラフォンのような柔らかい音のするパーカッションの音色(のサンプリング音)が、楽曲をカラフルなものにしている。このアルバムには、その後のキャリアで消えて無くなってしまったジャズ的要素もある。

  このアルバムの後は、ボーカル曲を採りいれ、ロックバンド的な編成での演奏が増えた。一方で密室的・内省的な印象が薄れてしまった。"Up in Flames"は聴きやすいが、その後の二枚はちょっとアクが強い。

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 (2009-10-23追記)2006年に、このアルバムと当時のシングル曲を収めた編集盤をカップリングした二枚組盤が再発されている。Caribou名義。
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初見だと思ったら同窓生だった

2009-10-19 19:59:34 | 図書館・情報学
  静岡県の図書館大会に行ってきた。僕は運営委員で、県外から来る講演者を迎える立場。会場で講演者と名刺を交換する際、こちらが「初めまして」と挨拶したら、向こうから「いえ、ゼミでご一緒しております」と返ってきた。なんでも、大学院のゼミで一緒だったことがあるらしい。そんなに昔の話でもないのだが、記憶にない。名前をみても気づかなかったぐらい。ゼミの人数が多かった時があったしなあ。世間は狭いよ。
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沼津の淡島に行ってきた

2009-10-16 13:23:17 | チラシの裏
  先日、家族で沼津のあわしまマリンパークに行ってきた。結構寂れた感があり、ロープウェイは停止中で、島へは船で渡った(それはそれ楽しかったが)。アシカやイルカのショーは素晴らしかったものの、水族館が小規模で、近年流行の大水槽が無い。中がからっぽの施設もあり、設立以来新たな設備投資がなされてこなかった様子がうかがえる。

  淡島は、東京相互銀行(現東京相和銀行)がバブル期にリゾート開発した観光地らしい。Wikipediaによると、この銀行は1999年に経営破綻し、東京スター銀行傘下に入ったとのこと1)。新規投資が行われてこなかったわけだ。職員は若く意欲的なようで、「動物への餌やり」など企画も練られているだけに、なんだかもったいない。

1) 東京相和銀行 / wikipedia
  http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E7%9B%B8%E5%92%8C%E9%8A%80%E8%A1%8C
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正しい心理学でわかっているのはここまで

2009-10-14 16:31:28 | 読書ノート
村上宣寛『心理学で何がわかるか』ちくま新書, 筑摩書房, 2009.

  心理学の入門書を意図したものだけれども、統計や実験の解釈法についての訓練を受けていない人にとっては読みにくいと予想される。新書にしてはかなり堅めの内容である。「心理学」を名乗る・あるいは「心理学」として世間的にみなされている疑似科学と、サイエンスとしての心理学を、著者が峻別せんとしているからだ。研究の参照にあたっては、証拠に基づいたもの(evidence-based)かどうかが検討され、そうでないものは切り捨てられている。カウンセリングが第一にイメージされる世間の心理学観に抗して、ハードな実証科学の面をわざわざ強調していると言えよう。

  カウンセリングについてはこう評価されている。
臨床心理学は人気があるが、その内容は特定の学派の心理療法やカウンセリングが中心で、実力や実態は、素人心理学からそれほど離れていない。臨床心理学専修の大学院では、そういう人が中心になるので、エビデンスに基づく治療研究は期待できない。臨床心理士がスクール・カウンセラーを勤めても、成果が上がらないのは当たり前である。(p.236)

  面白い。しかし、心理学専攻の大学に行こうとしている高校生はこの本を読め無さそうなのが残念なところだ。
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男女差別が撤廃された後の話

2009-10-08 10:33:48 | 読書ノート
スーザン・ピンカー『なぜ女は昇進を拒むのか:進化心理学が解く性差のパラドクス』幾島幸子, 古賀祥子訳, 早川書房, 2009.

  臨床心理士として読字障害や学習障害を持つ子どもを診てきた経験を持つ著者による、男女の心理における「生物学的な違い」についての書籍。文献調査とインタビューを論証の材料としている。インタビューは、①ビジネスやアカデミズムの世界で成功した女性(その多くはキャリア半ばで給与とストレスが共に多い仕事を辞めている)、②学習障害などを持っていて、学校生活は順調ではなかったが、社会に出て成功した男性、③男女差について調査した学者、の三パターンある。著者の兄は言語学者のスティーブン・ピンカー。

  この本によれば、男性はリスクを引き受ける傾向があるが、女性はリスク回避的であるという。男性の方がより競争志向的である(能力が低く勝ち目のないと思われる男性でもそうであるらしい)一方、女性は競争を避ける。これが原因となり、男女それぞれを平均した場合の、社会的地位の差や所得の差を生む、と本書では考えられている。そのため、高い地位へアクセスする機会やそこでの待遇を男女同等にしたところで、多くの女性がそれを望まないために、数における男女差は残ってしまうという。

  面白かったのは米国の学校事情。男女平等のプログラムが行き渡った米国の学校では、現在では平均すると男子より女子の方が成績が高いらしい。能力において男性のばらつきは大きく、底辺の男子は学校をドロップアウトしがちである。結果、大学に女子学生が増え、男子枠を作らなければならないような状況にある学校もあるようだ。今や社会的に救済の対象となるのは男性というわけだ。

  対人コミュニケーションの能力も女性の方が平均して高い、という指摘は経験的にわかる。先進国の産業構造の変化を考えると、男であることは不利であるという時代がやってきたのかもしれない。工業や建設は男性向きだが、顧客を満足させなければならない対人サービスは平均すれば女性の方が優れているだろう。後者に比重が傾いた現在、男性がサービス産業に参入して女性と職を争わなければならない場面が増える。こうしてみると、日本における、職人気質の称賛や「モノづくり重視」の主張は、男性の雇用保護の訴えとして解釈できるのかもしれない。
 
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バス減便で通勤時間が長時間化

2009-10-07 16:44:03 | チラシの裏
 普段は自転車なのだが、雨のためここ数日バスを使って通勤している。静岡市内は静鉄バスを使わざるをえないのだが、10月のダイヤ改正で本数が減ってしまった。かなり不便。ライバル不在の独占企業なのに儲かってないのだろうか?
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ラップを巻けば怪我から早く回復する

2009-10-05 22:19:59 | 読書ノート
夏井睦『傷はぜったい消毒するな:生態系としての皮膚の科学』光文社新書, 光文社, 2009.

  湿潤治療なる怪我の治療法を解説する書籍。なんでも、かさぶたが形成されるような乾燥状態は治癒を遅らせるのでだめで、傷口から液体が出る状態を保つ方が良いという。このほか、消毒が普及した歴史、日本の医師養成システムの問題点の指摘や、進化論的考察やらと、新書にしてはトピックの定まらない、もりだくさんの内容。それもこれも、最初の50ページまでの間に述べられる湿潤治療の説得力にかかっている。

  ではどうか? 僕の娘が、すでにかさぶたの形成されていた足を再び大きくすりむいた際、この本に書かれている治療法を試みた。最初にかさぶたが出来て次に転んですりむくまで、ほぼ一週間だった。つまり一週間たっても治癒していなかったわけだ。新たに形成された傷口には、ラップで巻く方法(注・毎日取り換えてます)で対処した。そうしたら、4日で新しい皮膚が形成された。すごい。

  そういうわけで説得されてしまった。ただし、治療以外の他のトピックについては、どの程度真に受けていいのかどうかは僕には判断できない。

  
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