矢祭町「もったいない図書館」(その3・最終回)

 30万冊の本が集まり、それを収納するために予定外の書庫を造ることになってしまいましたから、最初から町民数に見合った数の本を購入した方が、結果としては安くついたのではないかと思いますが(1人当たり約3冊として2万冊。1冊3千円として購入総額6千万円)、これまで、誰も取組まなかった方法で図書館を作ったことには意義があるでしょう。

 ただし、本来、行政が税金でまかなうべき住民サービスを、民意に甘える形で提供する事が、果たして許されるのかという議論もあることと思います。一方で、個人宅で処分に困っている蔵書を、文化的あるいは教育的に価値あるものとして再利用することの意義は大いに認められるべきでしょう。

 書庫と閲覧室は分離されておらず、整然と並んだ書棚の間の何箇所かに閲覧用の机・イスが置かれたオープン形式の明るい図書室です。

 図書館は出来ました。でも「矢祭もったいない図書館」にとっての大きな課題はこれからやってくることでしょう。今後2年間は書籍の購入はせず、寄贈され書庫に入っているものを積極的に閲覧室に配架し、利用を促進するのだそうですが、ということは、これから2年の間に出版される新刊書を、図書館から借りるという形では読む事が出来ないということです。蔵書30万冊の立派な図書館はあっても、その図書館で新刊書が読めないというのは、何かおかしなものです。

 図書館運営のスタッフの問題もあります。現在その多くは、1時間当たり500円の「謝金」が支払われる「有償ボランティア」でまかなわれているようです。町民自らの手で図書館を創り、育てていくのだという意識は育まれても、レファレンスサービスや読書指導が正しく行われているのか、果たして「司書」の資格を持つ方がどの程度いるのか、気になるところです。

こちらは児童書、絵本のコーナー。
 
 今回、「もったいない図書館」のために幾人ほどの方が本を寄贈されたのか、お聞きするのを忘れてしまいましたが、北海道から沖縄まで、全国各地から善意の本が届いたことは間違いないようです。送り主には町からの礼状が届いているようですが、さらに、閲覧室と書庫をつなぐ廊下のガラス張りの壁にすべての寄贈者のお名前が、なかなかしゃれた形で記されていました。

 Zoom Upしてご覧いただくと、ガラスの中央上部に「矢祭もったいない図書館 図書寄贈御芳名」と書かれているのがお判りいただけることでしょう。その下一面に白い点があるのにお気づきかと思いますが、これは模様にあらず。寄贈者のお名前です。県別に掲載されておりますので、寄贈された方が図書館をお訪ねになられた際には、ご自分の名前を探すことも比較的容易だと思います。

 1月14日の開館から、まもなく半年になる「矢祭もったいない図書館」ですが、どの程度の利用があるのかお聞きするのを忘れてしまいましたが、全国の自治体の図書館関係者の注目を集め、見学は引きも切らないようです。館内を案内してくださる館長の慣れた口調がそれを思わせます。これからの課題も少なくない図書館運営だとは思いますが、関係の皆さんが知恵を出し、力を合わせて、蔵書の数に負けない、町の皆さんに愛される素晴らしい図書館に成長することを陰ながら祈りたいと思います。

矢祭町、矢祭もったいない図書館関連Site & blog
矢祭町役場
矢祭町役場(図書の寄贈のお礼)2007年6月現在、新たな寄贈の受付はしていないとのこと。
矢祭町Wikipedia
タダで図書館を作る方法(「郷秋<Gauche>の独り言」内の記事)
タダで図書館を作る方法(続報)(「郷秋<Gauche>の独り言」内の記事)
矢祭町図書館、1月14日開館(「郷秋<Gauche>の独り言」内の記事)
矢祭町「もったいない図書館」(「郷秋<Gauche>の独り言」内の記事)
矢祭町「もったいない図書館」(その2)(「郷秋<Gauche>の独り言」内の記事)
矢祭町「もったいない図書館」(その3)(「郷秋<Gauche>の独り言」内の記事)
那須屋(矢祭町にある田舎宿屋)(「郷秋<Gauche>の独り言」内の記事)
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