アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

雷鳴の館

2012-04-15 21:55:49 | 
『雷鳴の館』 ディーン・R・クーンツ   ☆☆☆★

 休日の夕方に一気読み再読。これはクーンツがリー・ニコルズ名義で発表した<ロマンス・サスペンス>ものである。娯楽小説の職人クーンツの完全なるジャンル小説だ。女性読者向けに書かれたということで、サスペンス・ホラー+ハーレクィン・ロマンスみたいな雰囲気である。B級エンタメ臭ぷんぷんだ。が、たまにマクドナルドのチーズバーガーが食べたくなるのと同じで、こういう小説を読みたくなる。これはそういう時向けの小説だ。

 スーザンは病院で昏睡から目を覚ます。どうやら休暇中に交通事故にあったらしい。部分的に記憶喪失になっている。自分の名前や昔のこと、休暇をとったことは思い出せるのに、事故のことや仕事のことがまったく思い出せない。それどころか、自分の職場だという<マイルストーン社>の名を聞くと奇妙な恐怖感すら覚える。なぜだろう? それにこの病院は、奇妙によそよそしい感じがする…。とりあえず治療に専念しようとするスーザン。ところがそんな彼女の目に前に、かつて学生時代の恋人を<友愛会>の儀式で殺し、刑務所に送られた四人の男達が、一人また一人と現れる。ある者は患者となり、ある者は病院スタッフとなって。半狂乱になるスーザン。ところが医者や看護婦は、全員が別人だと断言する。これは君の脳の損壊が見せている幻覚なのだと。本当だろうか。しかし四人のうち二人はもう死んでいるはず。それにみんな、十数年前のあの時から歳をとっていないように見える。きっとそうなのだろう、これは私の幻覚なのだ、私の精神は狂っていこうとしているのだ……しかし、本当にそうなのか?

 とまあ、こんな話だ。深夜にテレビでやってそうなB級スリラーである。いかにもな場面が次々と現れる。リハビリを終えて移動ベッドに寝かせられエレベーターの中に入った途端、死んだはずの四人組に囲まれていたり、病室の中に死に掛かっている老婆がいてカーテンがかけられているがそのカーテンの向こうから「スーザン…スーザン…」といううめき声が聞こえてきたり、恐怖で半狂乱になったところを看護婦やスタッフに無理やり押さえつけられたり、ホラー映画やスリラーでおなじみのあんな場面やこんな場面がたっぷりだ。

 実は私は、「これはホントなのそれとも私の妄想なの、ああもう何がなんだか分からない、誰か助けて」というシチュエーションは結構好きである。しかもこれはB級テイストと相性がいい。『ローズマリーの赤ちゃん』もこの系統だな。

 で、これのどこがハーレクィン・ロマンスかというと、スーザンの主治医のマギーがやたらかっこいいのである。38歳、男性ファッション雑誌から抜け出してきたようなルックス、そしてユーモアと優しさ、聡明さを湛えたドクターらしい態度。スーザンはたちまちマギーにメロメロです。でもマギーは私のことをどう思ってるかしら、きっと恋人がいるに違いないわ、あの優しさは患者に対する普通の態度なんだわ……てな具合だ。勝手にしろ。

 終盤はもちろん種明かしがあって伏線が回収されるが、そうなってから後は辻褄合わせなので面白くない。それまではどういうネタなのかなかなか分からず、結構楽しめる。つまりオカルトなのか、謀略なのか、サイコ・スリラーなのか、SFなのか、なかなか分からない。

 ところで私はクーンツの小説をいくつか読んで飽きてしまったクチだが、飽きた最大の原因はどれも似たようなクリーチャーが出てくるからだ。いつも鉤爪がついた手に、蛇のような細長い瞳孔を持った目。さすがにこれはつきあっていられない。本書はそういうクリーチャーが出てこないところも割と気に入っている。

 とりあえず深夜映画でB級スリラーを見る感覚で読めば、リーダビリティは悪くないです。


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