アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

ルパン三世 First TV Series (その2)

2012-11-19 22:16:18 | アニメ
(前回からの続き)

 そしてどうしてもこれに触れないわけにはいかない、初期数話における峰不二子の妖艶さ。もう鼻血もんである。子供の頃、第一話で不二子がスコーピオンに捕まり、台の上に縛りつけられて胸元をはだけさせられる場面で大興奮したのは私だけではあるまい。そしてもちろん、主人公を手ひどく裏切る酷薄なヒロイン、ファム・ファタル的ヒロインというのは当時のアニメとしては斬新だったに違いないし、またそうと知りつつ不二子を口説くルパンの大人っぷりもまた、このアニメに奥深い味わいを与えている。

 さらに、最初期のエピソードにはスタイリッシュな「絵」へのこだわりがある。最初のエピソードである「ルパンは燃えているか・・・・?!」では、ルパンと次元のレーシングカーが入れ替わる時のストップモーションもそうだが、決定的なキメの「絵」はクライマックス、スコーピオンのアジトにルパンが現れる場面である。暗い会場、スクリーンにレースをするルパンの映像が大写しになっている中、ルパンのシルエットが浮かび上がる。

 「魔術師と呼ばれた男」ではたがいに燃え上がるルパンとパイカル、そして滝壷に燃えながら落ちていくパイカルの絵。「さらば愛しき魔女」では燃える花畑に立つリンダ、「十三代五ヱ門登場」では道路を走る車の屋根を飛び移りながら決闘するルパンと五ヱ門。しびれる「絵」がてんこ盛りで、見ていてワクワクする。

 そしてこのワクワクに拍車をかけるのが音楽である。あのチャーリー・コーセーの声と女性スキャットの洒落たサウンドが時に躍動的、時に哀愁たっぷりに聴かせてくれる。今回久々にあの「初期ルパン」のサウンドを聴いて、そのセンスの良さにあらためて感動した。このセンスはほとんどヨーロッパ映画で、たとえば「魔術師と呼ばれた男」でパイカルが滝壺に落ちていく場面の「ダバダ~ダバダ~」という哀感たっぷりの女性スキャットは『冒険者たち』みたいで涙モノだし、「ルパンは燃えているか・・・・?!」や「十三代五ヱ門登場」のクライマックスでかかる「ヤッパッパ」というあの音楽はとにかく燃える。しかしシリーズ後半ではチャーリー・コーセーの声があんまり聴けなくなってしまうのはなぜだろう。あれも「子供向け」じゃないってことか?

 ところで音楽で思い出したが、最初期のルパン三世オープニングのかっこよさは尋常ではない。あの、チャーリー・コーセーが「ルパンザサード」をただ連呼するだけのオープニングのことだ。音楽、絵、ともにこれほどクールなアニメのオープニングは他で見たことがない。踊る不二子、バイクを駆る不二子、銃をホルスターに収める次元の背中、などの断片的映像が渋い音楽とともに移り変わっていく。途中一回だけ出てくる「ダバダバダバ」がメチャメチャ効くのである。このオープニングはほんの2、3回しか使われず、すぐに「おれの名はルパン三世…」というナレーション付きのオープニングに変わってしまう。多分視聴者に分かりやすいようにキャラ紹介にしたのだろうが、センスの差は歴然である。そして後半になるとチャーリー・コーセーも退場してなんだかガチャガチャした能天気なオープニングになってしまう。

 今では大人向けのアニメも普通に作られていると思うが、当時はアニメといえば完全に子供のものだったのだろう。最初はシリアスで見ごたえのあるドラマだったのが子供向け路線に変更されるというのは『どろろ』と同じである。まあ後半も「タイムマシンに気をつけろ!」や「美人コンテストをマークせよ」などは悪くないと思う。パターンとしてはルパン一味が銭形や他の犯罪組織などと知恵比べをして、出し抜いたり出し抜かれたりする話が多くなる。ルパンはコミカルになってけだるいところはなくなり、次元は大人の余裕を失い、不二子は色気と毒気を抜かれ単なる紅一点になる。不二子の存在感の薄まり方は特にひどい、髪もショートカットになってしまうし。ちなみに私は旧ルパン・ファンの例に漏れず不二子の声は二階堂有希子に限ると思っているが、それは初期のあのあやうい雰囲気の不二子、色っぽく小悪魔的で謎めいた不二子は二階堂有希子の声でなければあり得ないからである。時々かすれ気味になる、囁くようなあの声こそ不二子だ。

 それにしても、もし「ルパン三世」が当初のもくろみ通り大人向けアニメとして、大隅正秋演出で1シリーズ分作られていたら、果たしてどんな作品が出来上がっていただろうか。ここまでのヒット作品にはなっていなかったかも知れないが、孤高のスタイリッシュ・ノワール・アニメが生まれていたに違いない。

 ところでこのDVDだけれども、特典資料がものすごく充実していてびっくりした。各話に出てくる銃器類や車のほぼ完全なリストが付いていて、細かい誤りまで指摘してあるし、ストーリーについても「このアイデアは後に『カリオストロ』に流用された」などの注がつきまくっている。「先手必勝コンピューター作戦!」の冒頭で「コミッショナー」と「ゴードン」が握手するのはおそらく偶然で、バットマンとは関係ないだろう、なんてことまで書いてある。クレジットを見るとどうも米人スタッフが作ったようだが、異様にマニアックだ。やっぱアメリカにもこういう人がいるんだなあ。オタク万歳。

 それからTV放映の2年前に作製されたパイロットフィルムがついていて、これがまた興味深い。ルパン三世の声を広川太一郎がやっていて、だいぶ雰囲気が違う。絵柄も原作に近い。「おれの名はルパン三世…」のナレーション付きオープニングで使われている絵がパイロットフィルムのものだということを今回初めて知った。キャラ設定もかなり違い、五ヱ門はどうやらルパンの敵キャラとして設定されているし、銭形の他に明智小五郎もいる。セクシーさも強調されていて、パイロットフィルムの中に不二子の乳首まで映っている。こりゃ子供には見せられんな。

 というわけで、これらの特典は日本版のDVDやブルーレイと同じなのかどうか知らないが、かなり愉しめるDVDボックスだった。今後も折にふれ観返したいと思う。やっぱりルパン三世は永遠に不滅です。

 


最新の画像もっと見る

コメントを投稿