アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

海に住む少女

2007-01-27 01:46:17 | 
『海に住む少女』 シュペルヴィエル   ☆☆☆☆

 光文社の「古典新訳文庫」でシュペルヴィエルが出ていたので購入した。みすず書房の『海の上の少女』をすでに持っているので、収録されている短篇は重複している可能性大だったが、新訳ということと、未読の短篇があればめっけものと思って買った。

 私と同じように気になっている人のために、収録されている短篇を以下に記載しておく。

 海に住む少女
 飼葉桶を囲む牛とロバ
 セーヌ河の名なし娘
 空のふたり
 ラニ
 バイオリンの声の少女
 競馬の続き
 足跡と沼
 ノアの箱舟
 牛乳のお椀

 この中で、みすず書房『海の上の少女』に収録されていないのは『空のふたり』、『競馬の続き』、『足跡と沼』の三篇。

 それと、この新訳では文体がすべて「ですます」調で、かなり平易でくだけた感じになっている。子供向けというには中途半端な気がするが、この「古典新訳文庫」ってそういう趣旨なのだろうか。まあとにかくそのせいで、もともと童話的なシュペルヴィエルの短篇がますます童話っぽくなっている。これまで読んだシュペルヴィエルの「幻想文学」的イメージとはだいぶ印象が違う。帯に『「フランス版・宮沢賢治」ともいえる、幻想的な詩人・小説家の、短篇ベスト・コレクション…」とあるので、そういう解釈で訳してみましたということかも知れない。慣れてくるとこれはこれで悪くない。訳文もちゃんとこなれていてしっかりしている。

 初読の三篇について。『空のふたり』は『セーヌ河の名なし娘』の天空版といった趣きで、かつて地上で暮らした人間達の影が、天上の世界で暮らしている、その世界の話。『競馬の続き』は、競馬の騎手が馬になってしまうといういかにもシュペルヴィエルらしい、詩的なメタモルフォセス譚。『足跡と沼』はトルコ人行商人を殺す農夫の話。人を喰ったような結末の短篇。それぞれなかなか良くて、この三篇を読めただけでも買った甲斐はあった。文庫だし。

 既読だった短篇も、『セーヌ河の名なし娘』など、より童話的な「ですます」文体のせいで違った感じで悪くない。結末の切なさ度はアップしている。


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