アブソリュート・エゴ・レビュー

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みんなのいえ

2007-01-29 22:22:43 | 映画
『みんなのいえ』 三谷幸喜監督   ☆☆☆★

 三谷幸喜が『ラヂオの時間』の次に作った映画。DVDを購入して再見。やっぱり面白い。私は『ラヂオの時間』よりこの『みんなのいえ』の方が好きなんだが、どうも世間の評価は『ラヂオの時間』の方が高いようだ。なんでだろう。

 『みんなのいえ』については「全然笑えなかった」というようなことを言う人も多い。確かにニヤニヤできるシーンはあるが、爆笑シーンなんてほとんどないと思う。でも、『ラヂオの時間』だって爆笑シーンなんてなかったような気がするが、どんなもんだろう。私が『ラヂオの時間』で嫌なのは、役者のわがままでどんどんラジオドラマの脚本が変わっていくという設定は面白いものの、肝心のラジオドラマが結局ぐだぐだになってしまってるじゃないかというところにある。本番中に脚本を変えなくちゃならないというサスペンスが成立するには、ドラマが破綻したらえらいことだ、という危機感が大事だと思うが、結局あんなぐだぐだになるんだったら、別にシカゴに海があることにしても、ニューヨークにパチンコ屋があることにしても良かったじゃん、と思ってしまうからだ。まして、そのグダグダになったラジオドラマでトラックの運ちゃんが感動して泣く、なんて都合の良い結末をつけられたら白けてしまう。

 私が『みんなのいえ』を好きなのは、多分この映画に「笑い」をそんなに求めていないからだろう。この映画の面白さは昔かたぎの大工・長一郎とインテリアデザイナー・柳沢の衝突、そしてその間に挟まっておろおろする若夫婦、という図式に尽きると思っていて、ギャグでげらげら笑うというのとはちょっと違う。ある意味、知らない人間にしてみればわけのわからないことにこだわる職人気質というのはそれだけで面白いものだが、両極端のこだわりを持った職人二人が激突するというシチュエーションは更に面白い。しかも、大工に田中邦衛、デザイナーに唐沢寿明ときたら面白くないわけがない。キャストに意外性がない、なんて言う人もいるようだが、この映画の場合この「いかにも」なキャストだからこそ面白いと思う。

 この二人の衝突するポイントがまた面白い。まず、ドアが内開きか外開きか。そう言われてみれば、アメリカの家の玄関は普通内開き、日本は普通外開きだが、そんなことこの映画を観るまであらためて考えたことなかった。しかし田中邦衛は叫ぶ。「内開きのドアなんて聞いたことねえ!」それから大黒柱。「大黒柱のない家なんて聞いたことねえ!」それからトイレ。「トイレ南向きにしてどうすんだよ!」それから「尺とインチ」。「おらぁインチで家なんて建てられねえ!」それからペンキとクロスばり。それから和室。それから……と職人同士のぶつかり合いは際限なくエスカレートしていく。

 この正反対の二人が和解する過程も、ご都合主義でなくなかなか説得力があっていい。こういうこだわりを持つ職人が相手を認めるにはああいうプロセスが必要だろう。そして和解した二人に嫉妬する田中直樹がまた笑える。風水とか持ち出してあれこれ口を挟む母親や、「おれたちはホント賃貸でよかったなあ」など何かとケチをつけたがる親戚など、脇役達も面白い。

 大笑いできるコメディを観たい人向きではないかも知れないが、「職人のこだわり」というマニアックなツボでニヤリとできる人にはオススメである。ちなみに、『ラヂオの時間』で堀ノ内編成をやっていた布施明が同じ役で出ている。


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