アブソリュート・エゴ・レビュー

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告訴せず

2015-11-21 23:28:08 | 映画
『告訴せず』 堀川弘通監督   ☆☆★

 前に原作を読んで映画も観たくなったがDVDが入手不可であるため諦めていた『告訴せず』、アマゾンでDVDが「在庫あり」になっていたので取り寄せた。まあ大した作品ではないだろうなと思いつつも、こんなマイナー作は今入手しないと手に入らなくなるだろうし、松本清張ものはマイナー作に意外と捨てがたい味があったりもするのでダメモトの投資である。

 ストーリーは大体原作通りで、選挙資金を持ち逃げした男が小豆相場で儲け、旅館の女と愛人関係になり、ラブホテル経営をし、しまいには周囲の人間全員に裏切られて破滅する。監督は『黒い画集 - あるサラリーマンの証言』と同じ堀川弘通監督だが、『告訴せず』の方がゆるい感じだ。そもそも部分的にスリラー風だったりどことなくコミカルだったりと、いささかトーンが曖昧で、統一感には欠ける。監督自身もDVD特典のインタビューで、占いを信じて小豆相場をやる話なのであんまりマジメにやるのもヘンだった、と語っている。そういうところがB級っぽいが、その代わり寝転がって気楽に見れるような愉しさはある。

 主演の青島幸男はなかなか好演だと思う。最初は女房にも馬鹿にされているダメ男だが、金を持ち逃げしてからは旅館の女中(江波杏子)とたちまちいい仲になったり、小豆で大胆な賭けを打ったりと、どこか器の大きさも感じさせるようになる。そんなつかみどころのない男を、独特の飄々とした風情で演じている。愛嬌もあるし、さすが国会議員をやったマルチタレントだけのことはある。

 もう一人のキーパーソンは間違いなく江波杏子である。美人で色気たっぷりだが、最近多いお人形さんみたいな美形女優じゃなくて、生活感がある女のリアルな体臭を持っている。だから寂しげな旅館の女中や、ラブホテル経営が夢だったといって張り切る姿もよく似合う。それに旅館で青島幸男の誘いをかけられた夜、彼の部屋へしのんでやってきて押入れから枕を出してふとんに入ってくるが、ああいう場面がウソくさくなくて、なんだかとてもなまめかしい。
 
 その他、脇を固める役者陣も豪華だ。金を持ち逃げされた恨みで青島幸男をつけねらうヤクザの親玉に西村晃、資金を出した政治家に小沢栄太郎、女房に悠木千帆(現・樹木希林)、落ちぶれた相場師に加藤嘉。たまらん人選である。全員活かしきれているとは言えないのが惜しいところだが、まあこれだけ出てくればおのずといいダシが出て、映画の味は濃厚になる。

 残念ながら終盤の展開が原作同様バタバタしてしまい、黒幕の登場もとってつけたようでピンと来ない。これについては監督もインタビューで「失敗した」と言っているが、火事から入院、記憶喪失の流れはばっさりカットして、もっと単純に騙し取られる仕掛けには出来なかったのだろうか。どうも場面がくるくる変わって慌しいし、その結果やっつけ気味のいい加減さが出てしまっている。突き放したラストの無常観が、かろうじて松本清張テイストを維持している。

 まあそんな風にゆるいB級作品ではあるけれども、役者の味と、エピソードを詰め込んだテンポの良さでそれなりに見られる映画だ。それに選挙資金持ち逃げ、旅館の女中、ストリップ劇場、小豆相場、ラブホテルと、とにかく昭和の空気がムンムン立ち込めていて、それも見どころのひとつだろう。



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