アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

ロンドンの傘

2011-07-25 21:52:45 | 刑事コロンボ
『ロンドンの傘』   ☆☆☆

 世界中のコロンボ・ファンにとって、ピーター・フォーク氏の訃報はまぎれもなく一つの時代の終焉を告げるものだった。少なくとも私にとってはそうだ。はっきり言って私は、コロンボ好きでは人後に落ちない自信がある。三谷幸喜は有名なコロンボ・ファンで、プロデューサーとコロンボの薀蓄勝負をして勝ち『古畑任三郎』をやらせてもらえることになったそうだが、その勝負にぜひ私も参加したかったと思う。むかし二見書房から出ていたコロンボのノベライゼーション本はほぼすべて持っていた。フォーク氏が歳取ってからやったコロンボの新シリーズは散々な出来だったが、やっぱり見ずにはいられない。が、フォーク氏の死とともに間違いなくコロンボは終わった。刑事コロンボはとうとう歴史になってしまったのである。

 それにしても、晩年のフォーク氏はアルツハイマーで自分がコロンボを演じたことも忘れていたという。なんという痛ましい話だろうか。人生とは、そして歳月の流れとは残酷なものだ。しかし世界中のコロンボ・ファンは「うちのカミさんがね」「因果な商売でして」「もう一つだけ」と言いながら、飄々と殺人犯を追い詰めるコロンボの勇姿を決して忘れないだろう。ピーター・フォーク氏のご冥福をお祈り致します。

 『ロンドンの傘』はシリーズ13番目のエピソードである。これはコロンボがロンドンに出張するといういわば企画もので、いつものロス・アンジェルスが舞台ではない。シェークスピア劇場、執事、パブ、雨傘、蝋人形館と英国情緒満点だ。コロンボがロンドン観光をする場面もあって、ビッグベンやテムズ川など名所も色々出てくる。まあロンドンのコロンボというのも目先が変わって面白いが、なんとなく観光番組みたいになってしまったのは個人的には微妙である。

 犯人は劇場で『マクベス』を演じている俳優夫婦。男女の共犯というパターンは多いが、夫婦で犯人というのはこれがシリーズ唯一だと思う。『マクベス』の舞台と、舞台の外で行われる殺人がオーバーラップさせてあるが、この趣向はなかなか凝っていて良い。スコットランド・ヤードの部長刑事が疑問を抱かない事故死を、コロンボが細かいところにこだわって殺人と暴いていくあたりもなかなか良い。が、被害者の傘に焦点が絞られる後半は犯人・コロンボともに傘の追跡にかかりきりになってしまい、心理戦や、ああいえばこういうというコロンボお得意の突っ込みがなくなってしまう。これが残念。

 それからラストは例によってトラップだが、これはちょっといただけない。コロンボのトラップは、それによって犯人の自白同然の行動を引き出し、その行動が決め手になる、というのがポイントのはずだが、今回はトラップと自白が直結している。つまり、これでは単なる証拠の捏造になってしまっている。間にワンクッションないとダメなのである。似たようなもんじゃないかという人もいるかも知れないが、私はこだわりたい。

 ただまあ、全篇に溢れる英国情緒によって、なかなか見栄えのするエピソードになっていることは確かだ。日本語吹き替えで観た場合、犯人コンビの妻リリアンの声が岸田今日子というのも個人的にはポイントである。ちなみにリリアンを演じるオナー・ブラックマンは『007/ゴールドフィンガー』のボンドガールだそうだが、それほど美人とは思えないなあ。



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