『日本怪奇小説傑作集1』 紀田順一郎、東雅夫 編 ☆☆☆☆☆
日本の怪奇小説を集めたアンソロジーだが、この巻は明治、大正、昭和初期ということで、ちょっと前の時代の怪奇小説である。また純文学系の作家の作品が多く収録されており、夏目漱石、森鴎外、芥川龍之介、谷崎潤一郎、室生犀星、川端康成、泉鏡花などなど、いわゆる「文豪」が勢ぞろい。超豪華メンバーである。こういう人達の書いた怪奇小説を一堂に集めたわけだから、面白くないわけがない。非常に読み応えがあった。
内田百「尽頭子」、岡本綺堂「木曾の旅人」、江戸川乱歩「鏡地獄」は読んだことがあった。他は全部初読。まだまだ日本にも面白い小説がたくさんあるんだなということが良く分かった。当たり前か。
怪奇小説ということだが、さすが一流の文人揃い、いわゆるホラー小説とはだいぶ違う。別にエンターテインメントとしてのホラー小説を貶めるわけじゃないが、わりとこけおどし的になりがちなホラー小説と違って、本書の作品はどれもこれも非常に抑制が効いて、キリリと引き締まっている。だらだら説明せず、ほのめかしてさっと切り上げるタイプのものが多い。くどくなく、端正である。だから、えぐいホラーを期待して読むと裏切られる。しかし、どれもこれも名人芸であることは間違いない。
最初の「茶碗の中」からして驚かせてくれる。完全なオープン・エンディングなのだ。いやオープン・エンディングどころか、断片的テキストと言ってもいい。時代が時代だから古風な怪談なんだろうと思っていた私の予想は完全に裏切られた。すみませんなめてました、と心の中で謝るしかない。次は泉鏡花「海異記」。いつもの耽美な世界が広がる。いやー素晴らしい。
特に良かったものを挙げると、まず谷崎潤一郎の「人面瘡」。タイトル通り人面瘡を扱った不気味な話だが、これを映画と組み合わせたところが素晴らしい。日本の女優が出ているアメリカの怪奇映画があり、そのテーマが人面瘡なのだが、女優はそんな映画を撮影した覚えがないのである。それだけでもぞっとするが、またこの映画が不気味で、夜一人で観ると不吉なことが起こるというのだ。なんだか『リング』を先取りしたような話である。これを谷崎の文章でやられるのだからたまらない。謎を残したまま終わる結末もいい。
それから編者も絶賛している室生犀星「後の日の童子」。これは怪奇小説というより哀切なファンタジーである。おとぎ話のような文体がとても心地よく、それで語られる不思議な物語はまさにポエジーとしかいいようがない。美しい。
それからまた、川端康成の「慰霊歌」が良い。恋人の体に降霊してくる死んだ女の話なのだが、これも恐いというよりエレガントで、エロティックな、非常に洒落た短篇である。ですます調の文体が華やかで、会話がすべて地の文に溶け込んでいる。これも美しい作品。弦楽四重奏を聴いているような気分になる。
夢野久作「難船小僧」。これは文豪の美麗、端正な作品が揃った本書中の異色作である。文体も破格、物語も破格。『ドグラ・マグラ』の作者の面目を遺憾なく発揮した残酷でエロティックで異様な作品。難船小僧と呼ばれる美少年を乗せると船が遭難するというたたりの話なのだが、最後のオチがまたすごい。本当に恐いのは船長だったのね。
そしてラストを飾る佐藤春夫の「化物屋敷」。これはタイトルほど怪談じゃなく、ほのめかしてさっと切り上げるタイプの淡白な怪奇譚だが、やはりこの人の文章は面白い。オーソドックスなようでユーモラス。読んでいるとたまに爆笑してしまうのである。これは計算してやっているのだろうか。
個人的に好きだったのはこのあたりだが、はっきり言ってどれも面白い。相当レベルが高いアンソロジーである。この日本怪奇小説傑作集、三巻まで出ているそうだが、この第一巻が一番レベルが高そうなのであとの二冊を入手するかどうかは迷っている。でも全部読んでみたい。
日本の怪奇小説を集めたアンソロジーだが、この巻は明治、大正、昭和初期ということで、ちょっと前の時代の怪奇小説である。また純文学系の作家の作品が多く収録されており、夏目漱石、森鴎外、芥川龍之介、谷崎潤一郎、室生犀星、川端康成、泉鏡花などなど、いわゆる「文豪」が勢ぞろい。超豪華メンバーである。こういう人達の書いた怪奇小説を一堂に集めたわけだから、面白くないわけがない。非常に読み応えがあった。
内田百「尽頭子」、岡本綺堂「木曾の旅人」、江戸川乱歩「鏡地獄」は読んだことがあった。他は全部初読。まだまだ日本にも面白い小説がたくさんあるんだなということが良く分かった。当たり前か。
怪奇小説ということだが、さすが一流の文人揃い、いわゆるホラー小説とはだいぶ違う。別にエンターテインメントとしてのホラー小説を貶めるわけじゃないが、わりとこけおどし的になりがちなホラー小説と違って、本書の作品はどれもこれも非常に抑制が効いて、キリリと引き締まっている。だらだら説明せず、ほのめかしてさっと切り上げるタイプのものが多い。くどくなく、端正である。だから、えぐいホラーを期待して読むと裏切られる。しかし、どれもこれも名人芸であることは間違いない。
最初の「茶碗の中」からして驚かせてくれる。完全なオープン・エンディングなのだ。いやオープン・エンディングどころか、断片的テキストと言ってもいい。時代が時代だから古風な怪談なんだろうと思っていた私の予想は完全に裏切られた。すみませんなめてました、と心の中で謝るしかない。次は泉鏡花「海異記」。いつもの耽美な世界が広がる。いやー素晴らしい。
特に良かったものを挙げると、まず谷崎潤一郎の「人面瘡」。タイトル通り人面瘡を扱った不気味な話だが、これを映画と組み合わせたところが素晴らしい。日本の女優が出ているアメリカの怪奇映画があり、そのテーマが人面瘡なのだが、女優はそんな映画を撮影した覚えがないのである。それだけでもぞっとするが、またこの映画が不気味で、夜一人で観ると不吉なことが起こるというのだ。なんだか『リング』を先取りしたような話である。これを谷崎の文章でやられるのだからたまらない。謎を残したまま終わる結末もいい。
それから編者も絶賛している室生犀星「後の日の童子」。これは怪奇小説というより哀切なファンタジーである。おとぎ話のような文体がとても心地よく、それで語られる不思議な物語はまさにポエジーとしかいいようがない。美しい。
それからまた、川端康成の「慰霊歌」が良い。恋人の体に降霊してくる死んだ女の話なのだが、これも恐いというよりエレガントで、エロティックな、非常に洒落た短篇である。ですます調の文体が華やかで、会話がすべて地の文に溶け込んでいる。これも美しい作品。弦楽四重奏を聴いているような気分になる。
夢野久作「難船小僧」。これは文豪の美麗、端正な作品が揃った本書中の異色作である。文体も破格、物語も破格。『ドグラ・マグラ』の作者の面目を遺憾なく発揮した残酷でエロティックで異様な作品。難船小僧と呼ばれる美少年を乗せると船が遭難するというたたりの話なのだが、最後のオチがまたすごい。本当に恐いのは船長だったのね。
そしてラストを飾る佐藤春夫の「化物屋敷」。これはタイトルほど怪談じゃなく、ほのめかしてさっと切り上げるタイプの淡白な怪奇譚だが、やはりこの人の文章は面白い。オーソドックスなようでユーモラス。読んでいるとたまに爆笑してしまうのである。これは計算してやっているのだろうか。
個人的に好きだったのはこのあたりだが、はっきり言ってどれも面白い。相当レベルが高いアンソロジーである。この日本怪奇小説傑作集、三巻まで出ているそうだが、この第一巻が一番レベルが高そうなのであとの二冊を入手するかどうかは迷っている。でも全部読んでみたい。
「茶碗の中」は、同じ紀田順一郎編「謎の物語」を読んだときに読んでいるはずなのですが、さっぱり思い出せません。。。
茶碗の中の幽霊を飲み込んで、話が途中でブッツリ切れるお話なのですよね。
うう、気になってきました。
小泉八雲、読んでみよう。
近代の作家の面白みは、最近になってやっとわかるようになりました。
ちなみに「謎の物語」は「虎か、女か」を読むために借りたのですが、一番面白かったのは木々高太郎「新月」でした。
ところで「聖女ジャンヌと悪魔ジル」、読みました!
小品ながら、とても密度の濃い、面白い作品でした。
今度は「魔王」に挑戦してみたいと思ってます。
紀田順一郎という人を私は知りませんでした。でもこの本は良かったです。なので2巻目も入手することにしました。日本の作家、特に文豪といわれる作家の作品って意外と読んでいないんですよね。読んでいるにしても代表作だけとか。だからこういうアンソロジーはありがたいです。
「聖女ジャンヌと悪魔ジル」良いでしょう。私も大好きなんです。あの文章であの物語をやられるともうたまりません。あと「魔王」はまだ読んだことないんです。感想ブログに書かれますよね。参考にします。