アブソリュート・エゴ・レビュー

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ノッティングヒルの恋人

2011-06-03 21:59:52 | 映画
『ノッティングヒルの恋人』 ロジャー・ミッチェル監督   ☆☆☆★

 DVDで鑑賞。昔テレビで観たことはあるが、最初から最後までちゃんと観たのは初めてだった。

 いわゆるロマンティック・コメディである。主演はジュリア・ロバーツとヒュー・グラント。ヒュー・グラントはロンドンのノッティング・ヒルで小さな書店を営んでいる青年。ジュリア・ロバーツは世界的に有名なハリウッド女優。たまたま書店に入ってきた女優と本屋の店長が出会って……というお話。現代の御伽噺というか、夢のようなストーリーだ。昔日本でも草薙と藤原紀香の似たようなドラマがあったな。

 まあ正直言ってストーリーはそこそこレベルだ。全体にちょっと都合良すぎる感じがする。いきなりアナ(ジュリア・ロバーツ)が会ったばかりのウィリアム(ヒュー・グラント)にキスしたり、向こうから電話してきたり、妹の誕生日パーティーについてきたり。誕生パーティーでのみんなの驚きの演技もいまいち不自然だし、アナを大スターと気づいていない親類の男が収入を尋ねたりするギャグも何だかいやらしい。アナとウィリアムは要するに最初から相思相愛で、多少すったもんだするものの大した障害はない。

 冒頭とラストはいい感じだが、あれはやはりコステロの甘いバラード『She』によるところが大きいと思う。この曲のプロモーション・ビデオを作って、この映画から二人が出会う場面、夜の公園の場面、アナがウィリアムの家に泊まる場面、気まずい別れの場面、本屋にやってきたアナをウィリアムが拒絶する場面、ウィリアムが記者会見の会場に駆けつける場面、そして記者たちの前でウィリアムがアナに告白をするクライマックスの場面、などを抜粋してつなげればほぼ映画と同じ(ひょっとしたらそれ以上の)感動を得ることができるんじゃないか?

 とはいっても面白いエピソードがなかったわけではなく、ウィリアムがホテルのアナの部屋を訪ねていき、記者と間違えられてしかたなくその時パッと目についた「Horse & Hound(馬と猟犬)」誌の記者だと言ってしまうところ、などは好きだ。かなり笑える。そして大事なのは、このギャグがクライマックスでもう一度出てくるということ。一番盛り上がって観客がじーんときたところで、ウィリアムのキメ台詞が入る。「それを聞いて、Horse & Houndの読者も喜ぶことでしょう」ここで観客はじーんと来ながら笑うことになる。

 ロマコメにおいては、このじーんと来ながら笑う、という場面のあるなしが非常に大きなポイントだと思う。優れたロマコメには必ずこういう場面がある。じーんと来るだけ、笑うだけ、じゃ足りないのである。両方一緒に来なければ。そういう意味でこの映画は、最後の最後できっちりポイントを稼いでいる。あの場面でこの「Horse & Hound」ギャグがなければ、これほど爽やかなエンディングにはならなかっただろう。

 それからやはり、この映画の魅力の多くはヒュー・グラントに負っていると思う。ハンサムでジェントルマンで、常に寛容で誠実、かつ英国的なユーモアのセンスの持ち主。肝心なのは、二枚目のくせにちょっとだけ間抜け、ということだ。この手の映画で主役を張るイケメン、カッコイイ男というのは大体において頭もよく、如才なく、仕事は有能、という万能キャラになりがちだが、それじゃ完璧すぎて嫌味だしキザである。ヒュー・グラントは違う。彼が演じるキャラはよく「ダメ男」と言われるが、彼が持つあのちょっと間抜けな感じ、微笑ましく親近感を感じさせるあのダメっぽさこそが、彼の最大の武器なのである。私も昔はこのヒューの魅力が分からず、あんなタレ目の頼りなさそうな男のどこがいいんだと思っていたが、今ではよく分かる。人を和ます、という資質は何よりも素晴らしい。この頼りなく、ちょっと間抜けなヒュー・グラントにはどんな完璧な二枚目もかなわないのである。

 それにこの映画のウィリアムは全然ダメ男なんかじゃない。初めて会った時のアナとの接し方などを見ていると実に如才なく、魅力的、それでいて人間味に溢れ、アナが一目惚れするのも無理はないと思える。ついアホなことをやってしまった後「ああ、おれはなんてアホなことを…」と落ち込む繊細さがまたいい。ハリウッドのコメディ映画に良く出てくる、アホやりっぱなしの真正アホでは困るのである。

 この映画を観て「おれもアナみたいな女とつきあいたい」と思う男はあんまりいないだろうが、女性はみんな「私もウィリアムみたいな彼氏が欲しい!」と思うのではなかろうか。

 まあそんなわけで、ヒュー・グラントの魅力を味わうにはいい映画だ。ところでコステロの『She』をダウンロードしたいのに、iTuneで扱ってないのはどうしたことだ。


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