アブソリュート・エゴ・レビュー

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必殺必中仕事屋稼業(その1)

2009-05-27 21:44:48 | 必殺シリーズ
『必殺必中仕事屋稼業』 ☆☆☆☆★

 久しぶりに必殺シリーズについて書きたい。この『必殺必中仕事屋稼業』はもうずいぶん前にDVDを全巻購入していたが、最近好きなエピソードをまとめて再見した。故人となってしまった名優・緒方拳氏を偲ぶためだ。
 知っている人は知っているように、この『仕事屋』は必殺シリーズの中でも名作の誉れ高い作品である。中村主水が出てこないいわゆる「非主水シリーズ」中では最高傑作といわれているし、「主水シリーズ」も含めたすべての必殺の中でもこれが最高と言う人すらいる。それほどの傑作である。

 前に必殺のレビューを書いた時に、一言でいうと『仕置人』はパワフル、『仕留人』は静謐、『仕置屋』は華やか、『新仕置人』はバランスの良さ、『仕業人』は「どん底」または「貧乏」と書いたが、この『仕事屋』のキーワードはなんといっても「切なさ」である。とにかく切ない。エピソードの一つ一つが切なく、シリーズ全体を通して観るとまた切ない。

 仕事屋チームのキャストは知らぬ顔の半兵衛=緒方拳、政吉=林隆三、おせい=草笛光子、利助=岡本信人である。おせいが元締め、利助が調査役、そして殺しの実行部隊が半兵衛と政吉。そして彼らと同等の重要なキャラクターとして半兵衛の内縁の妻、お春=中尾ミエがいる。そう、半兵衛は中村主水や糸井貢と同じく殺し屋でありながら妻帯者なのである。そして本作におけるお春の存在は、中村主水におけるコメディ・リリーフとしてのせんとりつ、あるいは糸井貢における悲劇性の強調材料としてのあやよりもはるかに大きい。半兵衛とお春の関係性が『仕事屋』全エピソードを貫く重要なテーマであり、そして『仕事屋』独特の切なさの源泉なのである。

 主水や糸井との決定的な違いは、お春は最後に半兵衛が仕事屋であることを知る、ということだ。しかも最悪の形で。そこには例えば『助け人』で文十郎の恋人だったお吉が文十郎の裏稼業を知り、メンバーとして参加したようなシンパシーの生じる余地はまったくない。彼女は半兵衛が「人殺し」であることを、ただひたすら無残に知るのである。彼女は泣きながら叫ぶ。「あんたはそば屋のおやじなのよ!」また別の時には冷たく言い放つ。「あんたの子供なんかできなくて良かった。人殺しの子供なんか…」これほどまでにヘヴィーな夫婦関係を描いた必殺作品は他にない。そしてこの二人の絆をとことんまで突き詰めていく最終回二部作は、とても涙なしには観ることができない。

 さてちょっと話題を変えて、『仕置人』の殺し屋チームが必殺史上最強だとしたら、この『仕事屋』チームは間違いなく史上最弱である。もともと素人という設定だし、実際に殺しの際にぶるぶる震えていたり、反撃されてやられそうになったりする。これは殺しの場面をスリリングにする意図があったらしい。しかしそれじゃカッコ悪いんじゃないかと実際に観る前は心配だったが、杞憂だった。やはり必殺らしいカッコ良さはちゃんとある。ちなみに本作の殺しのBGMは哀愁あり躍動感ありで非常に良い。私は必殺シリーズ中このBGMが『仕置人』の次に好きである。

 殺しの武器は半兵衛がカミソリ、政吉が女ものの懐刀。地味である。「トリッキーな殺し技」がウリである必殺にしてはあまりにも普通だ。それに実行部隊がたった二人というのも淋しい。弱いくせにたった二人。あれだけ超人が揃っていた『仕置人』チームですら三人なのに。が、この地味な殺し技、たった二人の淋しさがまたいいのである。大体、いつもぎりぎりいっぱいで仕事をしている二人が、いきなり心臓掴みだの三味線の糸投げなどを華麗に披露したらおかしいに決まっている。本作の魅力はこのリアルさ、渋さにある。

 さて、こういうメンツで展開される『仕事屋』のエピソードの数々は切なさいっぱいで見ごたえのあるものばかりだ。前半で印象に残っているのはまず第三話『いかさま大勝負』。桃井かおりがゲスト出演しているが、さすが大女優、いい仕事をしている。当然ながらまだ若い。いいなずけを探しに江戸に出てきた田舎娘、という設定で半兵衛とお春の蕎麦屋に居候をする。この女二人にいじめられて泣きそうになりながら家を飛び出していく半兵衛の情けなさが笑える。で、田舎娘のかつてのいいなずけ・茂作は女を騙しては岡場所に売り飛ばすワルなのだった。最後、茂作が迎えに来るといって喜ぶ娘。「よかったな」と言いながら、茂作に仕置をしなければならない半兵衛。雪の降る夜の仕置と、茂作のもとへ向かう桃井かおりの満面の笑顔が実に切ない。そして最後のシーンの、お春と半兵衛の何気ないやりとりがまたいい。

 第20話『負けて勝負』は珍しく殺しのないエピソードだが、これがまたしみじみしたいい話だ。ゲストは津川雅彦。インパクトのある悪役として必殺シリーズにはよく出演していて、時には「なんじゃこりゃ」という笑えるキャラを見せてくれるが(『仕業人』など)、このエピソードにおいてはかなりカッコいい。いかさまポーカーで人を破産させる色男のワルだが、仕事は人形作りで彼なりの信念を持っているようだ。最後はやはりポーカーで仕置をされるが、このエピソードのポイントはお春。色男の人形師はお春にちょっかいをかけるが、「所帯を持つならあんな女がいい」なんて言ってなんとなく本気っぽい。お春も悪い気はしないようだったが、やはり半兵衛への愛ゆえに身を引く。最後に二人が知り合いだったことを知った半兵衛、心配になってお春に急に優しくする。「何よいったい、気持ち悪いわねえ」なんて言いながら嬉しそうなお春。本当にいいなあ、この夫婦。

(次回に続く)



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