アブソリュート・エゴ・レビュー

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かもめの城

2012-02-29 22:48:24 | 映画
『かもめの城』 ジョン・ギラーミン監督   ☆☆☆★

 『シベールの日曜日』のパトリシア・ゴッジ主演の悲恋映画『かもめの城』を鑑賞。これも知る人ぞ知るマニアックな映画で、長いことソフト化されていなかったらしい。モノクロである。

 舞台はフランスのブルターニュ地方。海岸沿いの館に厳格な元判事の父親と一緒に住む少女アニエス(パトリシア・ゴッジ)は、古い人形を人間の友達のように扱い、かもめ達と会話しながら日々を送る、情緒不安的気味の風変わりな少女である。彼女は父親の古着を使ってかかしを作り、恋人のように振舞う。ある嵐の夜、護送車から逃げ出した囚人ジョゼフが庭に倒れているのを見て、アニエスはかかしが人間になったと思い込む。一家は彼を看病し、警察から匿う。やがてアニエスとジョゼフは恋仲になり、家を出て町で暮らし始めるが…。

 『シベールの日曜日』は神秘性と多義性の靄に包まれたきわめてアーティスティックな映画だったが、この『かもめの城』はもっと甘めの、ロマンティックなメロドラマである。といってもヒロインが14, 5歳の少女なのでやっぱりちょっとアブナイ感じではあるが。モノクロで映し出される海辺の光景と、哀愁漂うストリングスの音楽が甘美な雰囲気を盛り上げる。パトリシア・ゴッジは完全に子供だった『シベールの日曜日』から成長していて、といっても14, 5歳ぐらいだが、おとなになりかけた思春期の少女の感じがよく出ている。ちょっと胸もふくらんでいるし、キスシーンもある。

 あらすじから分かるように、物語はなんとなく『ミツバチのささやき』に似ている。アニエスがジョゼフをかかしの化身だと思いこむところだが、アニエスがどこまで精神異常なのかはぼかされていて、本当はアニエスは精神異常のフリをしている、という解釈も成り立つ。

 が、いずれにしろこれは『ミツバチのささやき』ほど濃密な映画ではなく、メロドラマとして見るべきだろう。ただ、かもめが舞う海岸のモノクロ映像はとても美しいし、加えて音楽や、パトリシア・ゴッジの魅力でチャーミングな佳作になっている。父親役の俳優さんや、ジョゼフを誘惑する若い家政婦役の女優さんもなかなかいい。残念なのはジョセフである。それなりに男前だけれども、縮れた頭髪にぶっとい眉毛がどうもチンピラっぽい。おまけに彼は周りの女に誰彼構わず手を出しているように見えるので、この映画の謳い文句のように「純粋な愛」って感じじゃない。彼もストイックな美青年だったら、もっと良くなっていたと思うのだが。

 あまり物語にはこだわらず、かもめが舞うブルターニュ地方の映像、美少女パトリシア・ゴッジ、そしてメロドラマティックな雰囲気の取り合わせを、まったり愉しむという態度で見れば良いと思う。

 


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