アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

ずっとお城で暮らしてる

2015-01-10 17:22:16 | 
『ずっとお城で暮らしてる』 シャーリィ・ジャクスン   ☆☆☆

 恐怖小説の書き手として有名な女流作家シャーリィ・ジャクスンを初めて読んだ。実は、有名な「くじ」すらいまだに読んだことがない。

 超自然的な怪談も得意らしいシャーリィ・ジャクスンだが、本書には超自然的な要素は一切ない。心理的な怖さを狙った小説である。長編といっても大して長いわけではなく、一日か二日であっという間に読める。語り手は少女メリキャット。メリキャットは姉コンスタンス、年老いた叔父と一緒に広壮な屋敷に住んでおり、一家は資産家らしい。が、コンスタンスは一切外出しない引きこもり状態、メリキャットは週に一回外出して買い物する時に異様なほど村人の敵意に怯えている。

 それがなぜかは、冒頭から少したった部分で明かされる。この屋敷にはかつて毒殺事件が起き、一家の大半が殺されてしまっていた。砒素入りの砂糖が原因だったため料理をしたコンスタンスが逮捕され、取調べられたが、結果的に釈放された。が、村の人々はいまだにコンスタンスを毒殺犯扱いし、裕福な一族への反感もあって、メリキャット含めた一家を憎悪している。

 ということのようだが、語り手が少女ということもあり、どうもはっきりしない。それに過去の経緯を最初から説明せずだんだん後出しにするという叙述法も手伝って、常に、真実は隠蔽されているという感じがつきまとう。さらに、メリキャット自身村人たちを憎悪していることから、彼女が語る「村人たちの憎悪」もどこまで本当なのか、もしかしたらメリキャットの被害妄想なのでは、というような疑念も湧いてくる。こうした「何が本当かよくわからない」感じと、それがもたらす居心地の悪さ、不安感、それが本書の基本的なトーンといっていいと思う。

 やがてこの一家の前に親戚のチャールズという男が現れ、コンスタンスに取り入ろうとする。どうやら一家の財産目当てらしいが、この男がメリキャット、そして多少頭がおかしい叔父と次第に衝突し始める、という風に話は進んでいく。進み方はスローペースであり、ゆったりしていて、目立ったアクションも少ない。村人やチャールズに対するメリキャットの悪意、それと対照的なコンスタンスへの愛情、自分たち家族の小さな世界への愛情などの独白、そしてそれらのバックグラウンドとなるメリキャットの牧歌的なようでどこか歪んだ世界観、これらが小説の大部分を構成している。後半、屋敷の火事という大きな波乱が起きるが、この物語の中で起きる目立った事件はそれぐらいだ。

 もしかしたらキングの小説みたいに最後に大掛かりなカタストロフが訪れるか、と思ったがそんなこともなかった。最後まで微妙な、気持ち悪いが不思議と牧歌的なムードが持続する。そういう意味では本作はアクション(筋)で読ませるホラー小説やスリラー小説ではなく、情緒とムードで読ませるゴシック・ロマンであり、独特の暗いリリシズムを湛えた寓話というべきかも知れない。ただ、このように地味で小粒な作品ではあるけれども、過去の事件の真相や村人たちの真意、メリキャットとコンスタンスの狂気など、多くの部分に曖昧性を残したまま終わりつつも読者に肩透かし感を与えない玄妙な手さばきには、やはり名手としての力量を感じる。

 もう一冊、代表作の『丘の屋敷』も一緒に購入したので、次はこちらを読む予定である。これは本書とはまた違う、典型的なゴースト・ストーリーらしい。



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