アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

麻雀放浪記

2012-03-13 21:10:05 | 映画
『麻雀放浪記』 和田誠監督  ☆☆☆☆☆

 日本版DVDを入手して鑑賞。初見である。傑作であるとは昔から聞いて知っていた。が、私は麻雀をやらない。ルールもさっぱり分からない。ツモだのドラだの奇妙な用語はまったく理解不能だ。だから観るのを躊躇していたのだが、ずっと気になっていたので思い切ってDVDの購入に至った。そしたらもう、大正解。メッチャ面白いやん。もし私と同じ理由でこの映画を敬遠している人がいたら、心配ないのでぜひ観てくだされ。もちろん麻雀を知っていた方がより面白いだろうし、それを考えると悔しいが、知らなくてもこの映画の面白さは問題なく賞味できる。

 まず、とにかく役者たちが魅力的。主役の真田広之はまだ初々しい青年で、この映画の中ではアクが薄いが、周りを取り囲む連中のアクの強さとそれらが奏でるハーモニーが絶品である。いいダシ出てます、ってとこだ。まずはドサ健の鹿賀丈史。これまで私が観た中で一番かっこよくノワールな鹿賀丈史である。クールなだけでなく、人間味と危なっかしさに溢れていて最高。次に女衒の達こと、加藤健一。この人もいいね。丁寧な物腰と凄み、そして奇妙な義理堅さ。そして忘れちゃいけない、出目徳の高品格。このおっさんがまたえぐい。麻雀のプロで、酸いも甘いも噛み分けた老練な勝負師。「明日はいい天気になりそうだなあ」ってこのおっさんが明日の天気を話題にしたら要注意なのである。

 さらに、こすっからいが情けない中年男に名古屋章。この人もいい味出してるねえ。一番見せるのはこっそり大竹しのぶに言い寄る場面だ。あんたみたいな女にはおれみたいな年寄りの方がいいんだ、とりあえず一緒に住むだけでいい、その後はあんたの気持ちしだいってことだ……いやー、女の口説き方に年季とずるさが滲み出ている。この役者さんもうまい。

 男性陣に劣らず女性陣も魅力たっぷりだ。なんといってもこの手のノスタルジー映画に欠かせないのが大竹しのぶ。おぼこっぽい中に女の情念を滲ませた存在感はやはり唯一無二だろう。彼女と鹿賀丈史という一見アンマッチな組み合わせがいい。そして強烈なのが、鹿賀丈史が彼女のいるところで他の連中に言い放つセリフ。おれは他の誰の世話にもならねえ、だけどこの女だけは別だ、この女はおれが心底ほれた女だ、だからこいつはおれのために生きなきゃならねえ。この女とお袋にだけは、おれはどれだけ甘えてもいいんだ。

 ある意味、究極のくどき文句かも知れない。

 そして真田広之の「年上の女」、ママ役の加賀まりこもいい。色っぽさと大人の女の余裕と、年上の女の引け目を感じさせる。彼女はふいといなくなってしまうが、あの退場の仕方は潔いなあ。真田広之はアクがない役だと書いたが、そういう彼が中心にいるせいで、まわりをめぐるアクの強い面々がバランス良く拮抗する。観ていて非常に心地よい。

 という役者の芝居の素晴らしさと、それを引き立てる脚本がやはり一番のウリだと思うが、もう一つ、イラストレーター和田誠のビジュアルへのこだわりも見所だ。本作はモノクロだが、これは昭和初期の雰囲気を出すための技巧というより、映画マニアの和田監督が過去の素晴らしきモノクロ映画たちへの愛着やみがたく、「おれもあんなモノクロ映画を作りてえぞちきしょう!」という衝動に素直に従った結果だと私は見る。昔の邦画っぽいタイトルバックや、レトロな音楽、それに場面によってはわざわざちゃちいセット(いかにもセットだと丸分かりのセット)を使っているところからも明らかだと思う。(しかし加賀まりこと真田広之が二人でたたずむ夜のシーン、あの星空のインチキくささはすごい)

 何はともあれ、映画ファンなら随喜間違いなしの必見ムーヴィーだ。
 


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
同感 (nekonosara)
2012-04-11 22:12:27
思わず投稿。
これは名言、名シーンの宝庫でしたね。
出目徳が「あいつ(妻)には夫婦らしいことはしなかったが、帰ったらけつでも揉んでやるか」か何か言って家の前の土手をのぼって行って、帰りはその土手を転がって水たまりにボチャーン…
負けたら何をされても文句は言えねえ、というような美学がかっこよかったです。
博徒の世界 (ego_dance)
2012-04-13 00:23:42
しびれますね。出目徳が二回続けて天気の話をするところも強烈です。ドサ健の「お前らにできるのは長生きだけだ」も良かった。こういう映画は何度観ても酔えます。
すてきなレビューありがとう (henri)
2012-11-20 19:44:37
偶然見つけたページですがコメントさせてください。
麻雀がわからなくても楽しめた、というのがすごい。私は麻雀わかるけど、あの映画の良さは麻雀の面白さじゃなくて人間ドラマ。だから、まったく同感。数々の名セリフを思い出させてくれてありがとう。どのセリフも心に残っています。とくにドサ健のセリフね。
私がもうひとつ名セリフに追加したいのは、加賀まりこの「もっと、他のことで生きてるんでしょ」ってやつ。
坊やテツ「女房にしたい」
まりこ「大人はそんなこと言わないわよ」
坊やテツ「じゃあ、なんて言う?」
その後でのこのセリフ・・・
自分が歳をとるほど、胸に響いてきます。
Unknown (ego_dance)
2012-11-24 12:17:28
加賀まりこの存在感も良かったです。年上の女の余裕と、引け目みたいなものを同時に醸し出していて…。そのセリフの場面もすごく印象に残っています。

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