『後宮小説』 酒見賢一 ☆☆☆☆
前からなんとなく気になっていた『後宮小説』の文庫を見かけたので購入。第一回日本ファンタジーノベル大賞受賞作である。
中国の架空の歴史譚だと思っていたら架空の国という設定だった。でも限りなく中国っぽい。銀河という少女が主人公で、それが何なのかも知らずに後宮の女募集のお触れを見て応募し、都にやってくるという話である。後宮の女として皇帝に仕えるためには教育を受けねばならず、正妃の座を狙うライバル達と一緒に学校みたいなところで教育を受ける。しかしこの学校というのはもちろん後宮の女を躾ける場所なわけで、奥深い性のテクニックや後宮哲学の勉強が主体、というなかなかとぼけた小説である。
だから性についての話があちこちに出てくるし、エロティックなエピソードも多少はあるが、大体において角先生のとぼけた後宮哲学が語られることが多く、それほどエロではない。そもそも主人公の銀河が天真爛漫で屈託のない少女である。
アニメ化もされたらしい(セックス絡みの部分はかなり抑えられたようだが)が、確かに主人公やその他のキャラクターはアニメ映えしそうな感じだ。銀河をはじめルームメイトの紅葉、いじめっ子キャラのセシャーミン、高貴な女タミューン、謎めいたコリューン、角先生、美形の野心家・菊狂、山賊・幻影達とそのブレーン・渾沌。特に面白いのは渾沌で、行き当たりばったりでありながら常勝、ひたすら自分の直感のままに生きる男。実に魅力的なキャラクターだ。この渾沌と幻影達が暴れまわって天下を揺るがし、戦へと突入していくのが後半の展開で、銀河たちもこの戦に巻き込まれていく。
こういう歴史ものの常として話が広がりすぎ、終盤がうやむやになるのではないかと心配したが杞憂だった。ちゃんと終盤テンションが上がって面白くなる。物語の収斂の仕方がスムースで美しい。銀河たちが自分たちの手で後宮を守ろうとするクライマックスの場面はもっと長くても良かったくらいだ。紅葉のキャラクターがやっと活きてきたと思ったら終わってしまうのが惜しい。
それにしても、作者が顔をのぞかせながら史実物語風に語っていく手法が巧みで、とても20代の作家の作品とは思えない。漢文などを織り交ぜながら飄々と話を進めていく。娯楽小説にありがちな映画のシナリオ風ではなく、時折エッセー調になって薀蓄を傾けたりしながらの稚気溢れる語りである。ユーモラスだが軽さの加減がちょうど良く、若い作家にありがちなふざけ過ぎがない。文章の品格が崩れることがない。それから角先生の後宮哲学や、後宮そのものが子宮のメタファーになっているなど仕掛けも見事だ。20代の若造が一体どこでこんなテクニックを身につけたのか。
『雲のように風のように』というタイトルのアニメもあるそうなので見てみたくなった。
前からなんとなく気になっていた『後宮小説』の文庫を見かけたので購入。第一回日本ファンタジーノベル大賞受賞作である。
中国の架空の歴史譚だと思っていたら架空の国という設定だった。でも限りなく中国っぽい。銀河という少女が主人公で、それが何なのかも知らずに後宮の女募集のお触れを見て応募し、都にやってくるという話である。後宮の女として皇帝に仕えるためには教育を受けねばならず、正妃の座を狙うライバル達と一緒に学校みたいなところで教育を受ける。しかしこの学校というのはもちろん後宮の女を躾ける場所なわけで、奥深い性のテクニックや後宮哲学の勉強が主体、というなかなかとぼけた小説である。
だから性についての話があちこちに出てくるし、エロティックなエピソードも多少はあるが、大体において角先生のとぼけた後宮哲学が語られることが多く、それほどエロではない。そもそも主人公の銀河が天真爛漫で屈託のない少女である。
アニメ化もされたらしい(セックス絡みの部分はかなり抑えられたようだが)が、確かに主人公やその他のキャラクターはアニメ映えしそうな感じだ。銀河をはじめルームメイトの紅葉、いじめっ子キャラのセシャーミン、高貴な女タミューン、謎めいたコリューン、角先生、美形の野心家・菊狂、山賊・幻影達とそのブレーン・渾沌。特に面白いのは渾沌で、行き当たりばったりでありながら常勝、ひたすら自分の直感のままに生きる男。実に魅力的なキャラクターだ。この渾沌と幻影達が暴れまわって天下を揺るがし、戦へと突入していくのが後半の展開で、銀河たちもこの戦に巻き込まれていく。
こういう歴史ものの常として話が広がりすぎ、終盤がうやむやになるのではないかと心配したが杞憂だった。ちゃんと終盤テンションが上がって面白くなる。物語の収斂の仕方がスムースで美しい。銀河たちが自分たちの手で後宮を守ろうとするクライマックスの場面はもっと長くても良かったくらいだ。紅葉のキャラクターがやっと活きてきたと思ったら終わってしまうのが惜しい。
それにしても、作者が顔をのぞかせながら史実物語風に語っていく手法が巧みで、とても20代の作家の作品とは思えない。漢文などを織り交ぜながら飄々と話を進めていく。娯楽小説にありがちな映画のシナリオ風ではなく、時折エッセー調になって薀蓄を傾けたりしながらの稚気溢れる語りである。ユーモラスだが軽さの加減がちょうど良く、若い作家にありがちなふざけ過ぎがない。文章の品格が崩れることがない。それから角先生の後宮哲学や、後宮そのものが子宮のメタファーになっているなど仕掛けも見事だ。20代の若造が一体どこでこんなテクニックを身につけたのか。
『雲のように風のように』というタイトルのアニメもあるそうなので見てみたくなった。
第1回受賞作ですか!。この作品から始まったんですね。
書評を読ませて頂きましたが、エロとかヌキに
して面白そうです。
ファンタジーって世界は広いですね。
そもそもはまったきっかけになった作品が、関俊介さん。
ワーカー改め「絶対服従者」。
虫たちの気持ち悪いファンタジーで何とも・・・。
ちなみにあんまり作者情報がないのですが、妙に詳しいサイトが
見つかっちゃいました。
http://www.birthday-energy.co.jp/
結構ご苦労されたみたいですね。
妙に動き回るとダメそうなので、作家一筋で
極められるのか試されるそうです。
ちなみに索引を見たら、いろんな作家さんの
記事にも行き着きました。
それらも結構興味深いかも。