アブソリュート・エゴ・レビュー

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女系家族

2011-07-19 19:30:40 | 映画
『女系家族』 三隅研次監督   ☆☆☆☆☆

 再見。面白い。面白いよお、この映画は。

 山崎豊子原作である。人間の欲の恐ろしさを描くのはいつもの通りだが、『華麗なる一族』がオヤジたちの地位と権力をめぐる闘争だったのに対し、こっちはもっと直接的に金、財産をめぐる女たちの戦いである。よりえげつなく、生々しい。オヤジくささはほとんどなく、京都の大店が舞台ということで華やかさもある。女たちの争いということからか、なまめかしい場面にも事欠かない。

 要は遺産相続の話で、父親が死に、遺産を三人姉妹でどう分けるかが問題になる。分配の仕方は遺言で規定してあるのでもめる必要はないはずだが、長女はいったん嫁に出た出戻りで、次女夫婦が店を取り仕切ってきたという過去の経緯や、不満があれば財産の一部で仲良く調整してくれなんて文言があるものだからややこしくなる。おまけに貴重な掛け軸が紛失していたり、所有する山林で番頭が不審な動きをしていたり、あげくの果ては死んだ父親の妾なんてのが出てくる。事態は紛糾するばかりだ。長女(京マチ子)は総領娘として妹達より少ない遺産分けには死んでも合意できないと叫び、次女(鳳八千代)はさっさと嫁に行ったくせに勝手だとわめく。三女(高田美和)だけは「よう分からんわ」と呑気だが、後見人の叔母(浪花千栄子)が「わてがついとるからには絶対損させんで」と気張る(この叔母は三女を養女にしようと思っている)。こうして凄絶なる遺産分け戦争の火蓋が切って落とされる。これが面白くないわけがない。

 達者な役者が揃っているので芝居は見ごたえありまくりだが、特にすごいのが叔母の浪花千栄子。嫌味な言い方と、わざとらしい笑みを浮かべて人をいたぶる表情がもう絶品だ。いたぶられるのは主に妾の若尾文子だが、まず最初に本宅伺いに来た若尾文子を浪花千栄子がネチネチと言葉でいびる。この嫌味、というか、オブラートにくるんだ罵倒と言うべき話芸はもはや芸術の域である。聞いていて惚れ惚れする。しまいには若尾文子の着ている羽織をビリビリと破ってしまう。もう何やりだすか分かったもんじゃなく、見ていてハラハラしてしまう。後になると、三姉妹と叔母が若尾文子の家に様子を見に行く場面もある(妾は妊娠しているのだが、もちろん、これでますます事態は深刻になる)。医者を呼んで無理やり若尾文子を診察しようとするのだが、ここでとんでもない場面がある。いやもう、すさまじいとしか言いようがない。女って怖い。

 それから個人的な大注目が、長女の京マチ子に肩入れする舞の師匠、田宮次郎である。よっ、待ってました! 柔らかい関西弁を使う舞の師匠でありながら、不動産から山林まで遺産分けの裏を知り尽くしている怪しさ満点の男。力を貸すといいながら自分が一番楽しんでいるとしか思えない。京マチ子と一緒に山林をチェックに行った時は、管理人がそのうさんくさい知識の豊富さに驚き「よう知ってまんな」と呆れると、「好きなんや、山が!」と厚顔に言い放つ。これには爆笑した。他にも京マチ子を誘惑する、金をせびるとやりたい放題で、金を借りる時なぞもニヤニヤしながら「貸してもらえますやろな」と完全に上から目線である。こいつの図々しさは一体どこから来るのか、と驚きあきれてしまう他はない。もっと出番を増やして欲しかった。

 番頭の中村鴈治郎もいい仕事をしている。この人がいるせいで映画に一本芯が通っている。最初はその低姿勢から誠実な番頭かと思っていると、これがまた曲者なのだった。浪花千栄子に詰問されて「へ? 最近耳が遠なりまして…」とバレバレのとぼけ方をするところが爆笑ポイント。これを受けて、ことあるごとに浪花千栄子が「なんや、また耳が遠なりはったんか」と嫌味を言うのも最高。この二人の掛け合いはとにかく愉しいぞ。

 こういうアニマルな人間模様の中で、若尾文子だけが終始品良くいびられ続けるので、最後のどんでん返しは非常に痛快だけれども、あそこまで行くとあまりに出来すぎという気もする。娯楽作品としては100%きれいにオチがついた感じだが、もうちょっと微妙さを残してくれた方が私としては好みだった。

 が、とにかく楽しめる二時間であることは間違いない。京都の情緒溢れる映像も良い。ちょっと毒がきついかも知れないが、こんなにも濃く、えげつなく、それでいて華やぎに満ちた日本映画を他に知らない。


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