アブソリュート・エゴ・レビュー

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世界短編傑作集 3

2012-09-19 07:19:54 | 
『世界短編傑作集 3』 江戸川乱歩編   ☆☆☆☆

 「世界短編傑作集 2」に続いて第三巻を読了。これは「2」より大分面白かった。収録作は以下の通り。

ウイン「キプロスの蜂」
ワイルド「堕天使の冒険」
ジェプスン&ユーステス「茶の葉」
バークリー「偶然の審判」
ノックス「密室の行者」
ロバーツ「イギリス製濾過器」
アリンガム「ボーダー・ライン事件」
ダンセイニ「二壜のソース」
クリスティ「夜鴬荘」
レドマン「完全犯罪」

 面白かったのは「茶の葉」「偶然の審判」「密室の行者」「二壜のソース」「夜鴬荘」である。「ボーダー・ライン事件」も小粒でなんてことない話だが意外と悪くなかった。中でも傑出しているのはやはり「偶然の審判」と「二壜のソース」だろう。「偶然の審判」は「毒入りチョコレート事件」の短編版だが、このシンプルな設定からさまざまな解釈が生まれ得るその豊穣さが素晴らしい。もちろんその豊穣さをとことん突き詰めたのは長編の「毒入りチョコレート事件」の方だが、短編でもその豊穣さが裏にあるがゆえに色々と想像がふくらむし、そのために探偵シェリンガムの視点の転換がひときわ鮮やかに感じられる。それに、ふとしたことから真相にいたるロジックの美しさが群を抜いている。

 そして解説者があとがきで書いている通り、名実ともに本書の目玉である「二壜のソース」。これは「奇妙な味」系のミステリで、トリックや推理がどうこういう作品ではない。読者も最初から大体見当はついているのだが、一つだけ分からない「木を切り倒した理由」の謎が効いている。これがなくてもプロットにほぼ影響はないのだが、作品のスパイスという意味で絶対の重みがある。一流の作家というのはこういうところがうまいのである。

 クリスティの「夜鴬荘」は推理ものではなくてサスペンスものだが、さすがに達者だ。ただ、最後のどんでん返しはちょっとやり過ぎじゃないだろうか。あんなことで人が死ぬとは思えないんですけど。それから、違う意味でびっくりしたのが「イギリス製濾過器」。不可能犯罪なのだが、あまりにあんまりなトリックに唖然とした。これってやっぱり、「傑作短編」なのだろうか……?


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