崔吉城との対話

日々考えていること、感じていることを書きます。

不倫

2016年02月22日 05時46分06秒 | 旅行
読売テレビのトークバラエティー「そこまで言って委員会NP」の辛坊氏が不倫問題の視聴率が期待に反して高くならないと首を傾げたことが印象的である。メディアは宮崎謙介前議員の「不倫」辞職を良い売りものにしようとしたが視聴率が上がらないのはなぜだろう。しかし倫理性があって不倫を訴えているとは言えない。イケメンには注目するが特に女性は「不倫」には目を背けるようである。
日本は性的に倫理性が強い社会であろうか。中世の修道院では自慰さえ罪であった。日本にはセックスを規制する宗教がない。儒教の女性への貞操観、キリスト教やイスラムの禁欲主義、仏教の戒律主義の影響が少なく、性道徳が最小限になっているのが日本である。不倫に抵抗する正義が弱い。今度の不倫を非難する人の表情を観察するとそれほど潔白性が見えてこない。ドラマで見るような秘密行為が見つかり議員辞職で社会劇social dramaは終わった。
 知人であり社会学の指導的な学者の飯田剛史氏の論文はアメリカの9.11同時多発テロからイラク戦争へ至る過程を社会劇のように分析した。社会劇とはアメリカ文化人類学者のビックトル・タナーの理論である。私は以前タナーの理論を以って韓国の民主化過程における反政府デモを社会劇として分析したことがあるので飯田氏の論文のその点に注目した。彼はエミール・デュルケムの「集合意識」を以て分析している。悪に反する「正義」とする道徳意識を集合力としている。この道徳規範が無視され性的乱交に至ることがあるが宗教的儀礼などを通して再構成されるという。それを9.11テロから世論、政策、メディアの情報操作、開戦、石油利権を得るなどのコースを明らかにし、文末には「日本国憲法の保持」というメッセージが書かれている。彼の長い研究成果を、読みやすい文章と深い意味、鮮明な論理で綴られている。一読を勧める。

 *飯田剛史「9.11同時多発テロからイラク戦争への米政策・マスコミ・世論の動態過程」『大谷大学研究年報』第67集、大谷学会、2014:1~33