駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

町医者は考える

2009年01月16日 | 学思
 町医者の仕事は取り留めもなく収束することがない。あれこれ様々な繰り返しで、しばしば中断を余儀なくされる。臨床では次どんな患者が来るか何時呼ばれるか予測しがたい。なんだ俺の私の仕事に似ていると思われる方も多いだろう。抜きん出て人を制するのではなく、広範囲を対象に蛇行しながら平衡を保ち、こつこつと歩き続けて行く仕事だ。
 こうした仕事のあり方と心持ちは実は社会の健康に欠かせないと思っている。誤解を恐れずに言えば、単純な目標を設定しひたすら努力邁進することは、必ずしも難しい仕事ではないと思う。たとえばある物を一番多く売るという使命設定はそれだけを最優先に生活することを正当化し、悩むことや迷うことを排除し極端に言えば善悪さえ捨象してしまう。実際に一番になれれば確かに凄いことではあると思うが、それでもそれが即立派なことにはならないだろう。立派だと賞賛に値するかは一番になった後に明らかにされてゆく性質のことのように思う。
 たった一つの目標を定めて突き進むことは、抜きんでた仕事を達成するために時に必要な方法だが、逸脱挫折切り捨ての温床になる危険性を孕んでいる。生きることに唯一単純な目標などありはしまい。多種多様の人が生きる社会では広い視野を保ち、辛くも平衡を保つことが(天才は別かもしれない)、普通の人には求めるられていると思う。簡単な答えや単純な目標に潜む陥穽に気付き、自分の知らない世界や理解できない世界の存在を認める謙虚さを忘れてはならないと町医者は自戒しつつ考える。
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