最前線で働いていると、色々な患者さんが回ってくる。中には大歓迎でもない患者さんも居られる。勿論、患者を差別しては居ないが、物わかりが悪く手の掛かる患者さんをこう表現するのは許されるだろう。なんたって門前払いをする医院もあるのだから。
Hさん83歳のお婆さん、この頃迷子になるようになり、警察の厄介になったこともある。息子が医者に診て貰うように勧められ、年に一二回風邪腹痛で掛かっている何でも診てくれるS医院(元外科医)に診て貰えるかと電話をしたら他に回すことになると言われ、頭の画像診断に力を入れているM脳神経クリニックに電話をしたら内科に行きなさいと言われ、三番目に十五年前に掛かったことのある当院に電話が掛かってきた。受付が受けますかと聞くから「いいよ」と答えた。つい、電話を切ってから「大歓迎じゃないけどね」と付け足してしまった。気にするなと言われるかも知れないが、最初に電話を戴きたかった、少なくとも二回目には。医者も人間そうした感覚はある。
一時間ほどして、息子に連れられた婆さんがやってきた。挨拶は出来る、身だしなみはもう一つで清潔な感じはしないが、体格栄養は良好だ。血圧が200ある、左右二度測定したが180以下には下がらない。勿論、何ともないから医者なんかには掛かっていないと宣う。長谷川式は15点で、アルツハイマー型認知症の可能性が高い。心陰影の拡大があり、高血圧を放置していたようだ。
高血圧症があること認知症があること、幾つか検査をして確認は必要だが、ここで治療して行きますと話すと、息子はにっこりし、来て良かったと帰られた。そう言って戴ければ、こんなに嬉しいことはない。