初診では風邪のようでも一通り食習慣家族歴などまで聞く。それこそ寿限無寿限無と同じで、言い慣れているのでどんどん定型質問が口から出てくる。
喉が痛くて鼻水が出るという女性が来られた。初診である。七十七才だからまあ、婆さんと呼んでもよいお年頃、
「たばこ、吸いますか」。
「ノー」。
「アルコール」は
「ノー」、なぜか突然英語?で答える。なんだね、この婆さん帰国子女でもあるまいし、と思ったのが分かったのか次からは日本語で答える。ノーというのは婆さんに取っては日本語だったのか、病気に関係ないことを聞くので、そんな質問はノーサンキューという意味だったのか。よく分からんが、繁忙期にリズムを狂わせるるようなお返事は有り難くない。
まあ、医院に限らないだろうが、初めての患者さんには気を付けなければならない。勿論、二回目三回目とだんだん本性が現れる人も居るが、それはそうだったのかと合わせてゆける。初診は虚を突かれることがあるので要注意なのだ。何か変だと感じたら、たとえ風邪でもしつこく既往歴通院歴を尋ねなければならない。四、五年に一人くらい怒り出す人がいる。怒って支払いもせずに帰ってしまった人も二、三名おられる。
悪評が立とうが譲れない線もある。喩え風邪でも細かく病歴を聞くことと上半身を裸にすることだ。開院当初は妙齢の女性でも初診時は上半身裸にして診察していたが、流石にあそこはという芳しくない噂があると通院中の患者さんから注意されたので、今は女性の場合はブラジャーを付けていても良いことにしている。
そうすることで防げる失敗は五百人に一人くらいのもので、こだわらない医師も多いだろうが、先達の教えは守るようにしている。