駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

新しい抗凝固薬をどう使う

2013年07月05日 | 医療

            

 脳梗塞の中に心原性といわれるものが三分の一弱あるのだが、これがなかなか質が悪いのだ。重症なことが多く、亡くなることあるし一命を取り留めても重い障害を残すことが多い。首相や監督の名を挙げれば思い当たるだろう。

 そこで原因となる心房細動という不整脈で生じる心臓内の血塊形成を防ぐために、抗凝固薬が使われている。ワーファリンという薬で、納豆を食べてはだめというあれだ。ワーファリンはビタミンKの働きを阻害してビタミンK依存性に生成される凝固因子の働きを抑えている。納豆にはビタミンKが多く含まれているので食べてはいけないとされるわけだ。

 ワーファリンの厄介なところは効きすぎて出血を助長することがあり、出血性の事故が1.0%/年前後起きることだ。これば頭蓋内だと致死的で、痛ましいことになる。しかし、事故を恐れ、不十分な量を使っていては脳梗塞を防げないので、適度な効果が出ているかを月に一回程度採血してチェックしてゆかなければならない。ワーファリンの効果は納豆以外の食べ物や併用する薬の影響も受けるので、以外に一定の効果を保つのは難しい。

 こうしたワーファリンの弱点をかなり改善した新規の抗凝固薬(NOACと呼ばれる)が出現し、薬品メーカーは眼の色を変えて売り込んできている。NOACはワーファリンに認められる出血性合併症を数分の一に減らし、頻回の効果を確認するための採血検査も不要で、とても良い薬だと、メーカー主催の講演会で講師の医師は力説しておられた。

 しかし、彼が言い忘れたことが一つあった。それは薬のお値段だ、ワーファリンだと20-30円/日なのだがNOACは400-600円/日掛かる(患者負担は3割)。友人のY先生が講演会後の立食パーティでワーファリンをNOACの最新薬に変えたところ、患者さんが顔色を変えて戻ってきて、ワーファリン人に戻してくれと言われたよ、値段とは言わなかったけど高かったからだと思うよと笑っていた。

 まあしかし、月額三-四〇〇〇円高くなるけどとどうかねと、NOACを勧めてゆくことになるんだろうな。尤も、あんまり普及すると高価な薬は保険の査定で目の敵にされたり、厚労省が何かと縛りを設けて使いにくくしてくる可能性はある。

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