アイルランドは思ったよりも寒かった。メキシコ湾流のおかげで、冬の寒さはさほど厳しくないようだが、春は肌寒く感じた。夏も摂氏20度程度の気温で、暑いということはないらしい。
ダブリンは紛れもない都会なのだが、三十分もドライブすると人家がまばらな緑野に出る。農地ではなく牧草地のようだが、家畜をほとんど見かけず、美しいけれども閑散としてどこか寂びれた感じがした。ダブリンから更に西へ、島を横切りゴールウエイへ近づけば土が薄くなり石が増えてくる。所々にこんもりとした森があるが、丈も低くまばらで昼なお暗いような深く大きなものではない。荒野と呼んだ方が相応しい風景になる。
緑が目に美しいけれども不安定な天気と春なお冷たい風に、実は厳しい土地なのだと知った。五百年以上にわたり何度も英国からの自立を求めて戦っては破れ、ついには十九世紀の大飢饉で数多い人が餓死し多くの人が移住していった国土、その印象は美しいが厳しい土地だということだ。
美しい緑と妖精の住む国の背後の厳しさ、それを奇妙な言い方だが新鮮に感じた。それは厳しさが絶えて日本に感じられないからだろう。
感じないのは必ずしも厳しさが日本にないからではあるまい。現実を直視する力が萎えているのだ。特にマスコミの大半は、厳しい現実を微妙な陰影にまぶしてまやかしてしまう。
本を読み旅をして人と話をする、人生に欠かせないことと感じた。