駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

医師見通しの偏り

2009年07月13日 | 医療
 土日と週末にかかわらず、缶詰になって緩和ケア研修を受けて来た。30名の受講者中、どうも私が最高齢者のようであったが、素知らぬ顔で若手中堅に混じって参加した。
 昼休み、会場から公園を見下ろすと夏の日差しが緑の松と茶色のグランドに照りつけ、ああ夏になったと感じた。折角の好天の日曜日、閉じこもって勉強するのはちょっと口惜しかったが、それなりの成果はあった。
 ちょっとほっとしたのは、なぜか医師は末期がん患者さんの予後を楽観的に予測するという統計を知った時だ。今まで、あと10日くらいと思いますと言いながら数日後に亡くなるようなことがよくあり、自分は甘くて駄目だなあと思っていたのだ。それが、ほとんどの医師が楽観的に予測すると知って、みんな家族の心配そうな顔を見るとつい長目に言うんだなと納得した。まあ、なぜ長目に予測するかの分析はなかったのだが、自分はそう解釈した。
 三人に一人はがんで死ぬ時代なのに、緩和ケアの思想はまだまだ十分に普及していない。どうも患者も医療者も、死から目をそらす傾向があるようだ。
 生活習慣改善でなんとかなりそうな高血圧高脂血症糖尿病の注目度が高く、がんがちょっと置き去りの感じがする。誰もいずれ死に行く身ということを思い起こし、時々は死を視野に入れて生きることをお勧めしたい。がんと言われてから死を考えるのでは、がんも迷惑だろう。がんだけが死に至る病ではなく、がんは特別な病気でも珍しい病気でもない。驚かれるだろうが、平均寿命まで生きれば二人に一人はどこかの臓器のがんに罹る。
 そうは言っても確かにがんは人を死に向き合わせる病気で、十分なケアがなければ苦しみもあり、緩和ケアが必要とされる病態をもたらす。緩和ケアの思想と技術が行き渡ることを願う。
 今回の研修は、長い経験はあったのだが、それでもああそうなんだと新しく教えられることが多く、若い医師との交流もあり、誠に有意義であった。
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