阿蘇カルデラの内牧(うちのまき)のホテルで目覚めると分厚い雲が低く垂れこめています。始発のバスで阿蘇山上(中岳火口)を目指しました。乗客は私一人です。登るにつれて霧のため視界は狭まり50m前方の道路だけが見えていました。運転手さんのアドバイスもあり、手前で下車し火山博物館を見学しながら雲の晴れるのを待つことにしました。館内の一角では学芸員が太陽観察グラスを用意して日食観察を呼びかけています。あいにく阿蘇山上の雲は厚く、欠けた太陽をほんの一瞬だけ見ることができたということです。
阿蘇を代表する風景の草千里ケ浜は博物館の目の前にあります。かつては火口だった直径1㎞ほどの草原です。午後になるとそれが見渡せるようになりました。そこで再びバスで移動し、さらに中岳火口に登ります。火口に近づくにつれてこの風景は以前に見たという思いが強くなりました。よみがえったのは中学の修学旅行すなわち50年前の記憶に違いありません。
つぎに山を下りて阿蘇神社を訪ねました。神社には珍しい二層屋根の楼門があり、あたりは凛とした空気に満ちています。3月には神々の結婚を祝う 「火振り神事」 、7月28日は豊作を祈る白衣の宇奈利行列の 「おんだ祭り」 、9月25日は新穀を感謝して流鏑馬(やぶさめ)が行われる 「田実祭」 があります。
カルデラには5万人が暮らしています。2泊したことでカルデラをより多く感受できた気がします。旅の最終日は開通100年を迎えた肥薩線でした。まず明治36年に鹿児島~吉松間が、明治41年に八代~人吉間(球磨川沿いを走る川線)が開業しました。そして最大の難所である人吉~吉松間をループやスイッチバックの技術を使って開通させ明治42年(1909年)の全線開業に至ったのです。この人吉~吉松間を現在は観光列車いさぶろう・しんぺい号が運行されています。指定席は500円で自由席もわずかながら設けられています。(完)