食べることが楽しくなくなったら、人生の半分以上終わってるんじゃないかな。
著名なシェフが孤島のレストランで振る舞う特別なディナーコース。しかし何かがおかしい。
招待されたのは12名のお客。年代、性別、人種が多様な彼らの共通点は、自身の雑談やシェフ・ジュリアンとの対話を通して少しずつ分かってくる。
主人公は若い女性・マーゴ。ディナーには知り合いのタイラーから誘われた。どうやら予定していたパートナーに断られた穴埋めらしい。
タイラーはジュリアンの料理の腕だけでなく、メニューを説明する言葉にも涙を流すほど感動する。よほど心酔しているらしい。
しかし心酔しているのはタイラーだけではなかった。レストランで働くすべての従業員が、まるで独裁者に従うみたいに一糸乱れぬ結束で料理を準備しているのだ。さすがは超一流のレストラン。これからどんな料理が運ばれてくるのか、客たちの期待は高まるばかりであった。
そんな様子が変わったのは、2品めの料理が運ばれてきたところであった。本来はパンが運ばれてくるところを、出てきたのはパンにつけるオイルだけ。
ジュリアン曰く、パンは昔から庶民の食べもの。高貴なお客様方に出すものではないとのこと。苦笑しながらも、超一流は考えることも違うと矛を収める客たち。
そして3品め。出てきたのは看板料理のトルティーヤ巻き。しかしそのトルティーヤには、それぞれのお客用に特注のレーザープリンターで焼き付けられたデザインが施されていた。
さらにコースは4品め、箸休めと続くのだが、メニューが進むごとに恐怖と不気味さが増していく演出は見事であった。
異常さを湛えながら冷静にプロフェッショナルに徹するジュリアンを演じるのはR.ファインズ。彼以上の適任はいないだろうと思える配役である。
新しい料理の準備ができて彼が手を叩くごとに、客たちの寿命は削られていく。なぜここに自分たちが招かれたのか。ジュリアンに理由を明かされても、もう逃げることも戻ることもできない。どんな些細な理由であれ、レストランの中ではジュリアンが下した決断に従うほかないのである。
しかしそんな中で、マーゴだけは明らかにここにいる理由がなかった。ジュリアンにとっては計算違いであるが、それですべてを壊すわけにはいかないと、マーゴにある決断を迫る。
まったく予想のつかない物語に恐怖映画以上の圧迫感を覚え、細い糸ほどの希望を手繰り寄せようとしてはひっくり返される展開に他人事ながら悔しい思いを抱く。映画を観ながらこれほど手に汗を握ったのは久しぶりの体験だった。
時間を追うごとに覆っていく絶望感。せめてマーゴだけでも逃げる術または倒す術はないものか。
ここからはひょっとすると個人の趣味で評価は変わるかもしれない。だけど、個人的にはこの無理ゲー世界の着地点は、ほぼ完ぺきであった。予想しない方向からアプローチし、納得のいく理由で局面を変えてみせた。マーゴとジュリアンのキャラクターをブレさせずに物語をまとめたのだ。これはすごい。
物語もさることながら、とにかくテンポが良い。メニュー1品ごとに盛り上がりがあり、その山が少しずつ大きくなる。それも緩むことなく小気味よく進む。レシピの説明字幕もブラックでありながら笑えてしまうほど心憎い(ブラックといえば、映画のタイトルでもある「メニュー」の最後の扱いも素晴らしかった)。
料理が中心軸にあるから、画としてもキレイである。ジュリアンの集大成となる最期のメニューは、キレイな地獄とでも言おうか。食べられるわけではないけど、料理を冒涜しているのでもない。チョコレートがスプラッタに被る場面、スモアはちょっとトラウマになるかもしれない。
彼はなぜあんな行動に出たのか。もう食に携わることが楽しいころには戻れないと悟ってしまったのだろうか。
と思いながら、帰りがけに高貴なディナーとはかけ離れたから揚げ定食に舌鼓を打つのであった。
(95点)
著名なシェフが孤島のレストランで振る舞う特別なディナーコース。しかし何かがおかしい。
招待されたのは12名のお客。年代、性別、人種が多様な彼らの共通点は、自身の雑談やシェフ・ジュリアンとの対話を通して少しずつ分かってくる。
主人公は若い女性・マーゴ。ディナーには知り合いのタイラーから誘われた。どうやら予定していたパートナーに断られた穴埋めらしい。
タイラーはジュリアンの料理の腕だけでなく、メニューを説明する言葉にも涙を流すほど感動する。よほど心酔しているらしい。
しかし心酔しているのはタイラーだけではなかった。レストランで働くすべての従業員が、まるで独裁者に従うみたいに一糸乱れぬ結束で料理を準備しているのだ。さすがは超一流のレストラン。これからどんな料理が運ばれてくるのか、客たちの期待は高まるばかりであった。
そんな様子が変わったのは、2品めの料理が運ばれてきたところであった。本来はパンが運ばれてくるところを、出てきたのはパンにつけるオイルだけ。
ジュリアン曰く、パンは昔から庶民の食べもの。高貴なお客様方に出すものではないとのこと。苦笑しながらも、超一流は考えることも違うと矛を収める客たち。
そして3品め。出てきたのは看板料理のトルティーヤ巻き。しかしそのトルティーヤには、それぞれのお客用に特注のレーザープリンターで焼き付けられたデザインが施されていた。
さらにコースは4品め、箸休めと続くのだが、メニューが進むごとに恐怖と不気味さが増していく演出は見事であった。
異常さを湛えながら冷静にプロフェッショナルに徹するジュリアンを演じるのはR.ファインズ。彼以上の適任はいないだろうと思える配役である。
新しい料理の準備ができて彼が手を叩くごとに、客たちの寿命は削られていく。なぜここに自分たちが招かれたのか。ジュリアンに理由を明かされても、もう逃げることも戻ることもできない。どんな些細な理由であれ、レストランの中ではジュリアンが下した決断に従うほかないのである。
しかしそんな中で、マーゴだけは明らかにここにいる理由がなかった。ジュリアンにとっては計算違いであるが、それですべてを壊すわけにはいかないと、マーゴにある決断を迫る。
まったく予想のつかない物語に恐怖映画以上の圧迫感を覚え、細い糸ほどの希望を手繰り寄せようとしてはひっくり返される展開に他人事ながら悔しい思いを抱く。映画を観ながらこれほど手に汗を握ったのは久しぶりの体験だった。
時間を追うごとに覆っていく絶望感。せめてマーゴだけでも逃げる術または倒す術はないものか。
ここからはひょっとすると個人の趣味で評価は変わるかもしれない。だけど、個人的にはこの無理ゲー世界の着地点は、ほぼ完ぺきであった。予想しない方向からアプローチし、納得のいく理由で局面を変えてみせた。マーゴとジュリアンのキャラクターをブレさせずに物語をまとめたのだ。これはすごい。
物語もさることながら、とにかくテンポが良い。メニュー1品ごとに盛り上がりがあり、その山が少しずつ大きくなる。それも緩むことなく小気味よく進む。レシピの説明字幕もブラックでありながら笑えてしまうほど心憎い(ブラックといえば、映画のタイトルでもある「メニュー」の最後の扱いも素晴らしかった)。
料理が中心軸にあるから、画としてもキレイである。ジュリアンの集大成となる最期のメニューは、キレイな地獄とでも言おうか。食べられるわけではないけど、料理を冒涜しているのでもない。チョコレートがスプラッタに被る場面、スモアはちょっとトラウマになるかもしれない。
彼はなぜあんな行動に出たのか。もう食に携わることが楽しいころには戻れないと悟ってしまったのだろうか。
と思いながら、帰りがけに高貴なディナーとはかけ離れたから揚げ定食に舌鼓を打つのであった。
(95点)
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