Con Gas, Sin Hielo

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「ドントウォーリーダーリン」

2022年11月12日 20時50分27秒 | 映画(2022)
無能ならば尻に敷かれておけ。


かつてはJ.キャリーの「トゥルーマンショー」、最近では「フリーガイ」なんかが当てはまるだろうか。主人公が暮らす世界が何者かに作られた虚構のものだったという設定の映画は一定の頻度で作られている。

大概のパターンとして、冒頭は何の疑いもなく平和な日常を送る主人公の姿が描かれ、それが些細なことをきっかけに「何かがおかしい」という感情が芽生え、大きなうねりに飲み込まれていくという流れで話が進む。作られた世界は必要以上に明るいトーンに彩られ、真実のどす黒さとの対比がおもしろさのポイントとなってくる。

そこで本作であるが、最初に思ったのは、これは「何かがおかしい」ではなく「すべてがおかしい」よね?ということであった。

主人公のアリスと夫のジャックは、ビクトリー計画という一大プロジェクトに参加している。計画の参加者は砂漠のど真ん中に作られた町に住んでいるが、町はプロジェクトのリーダーであるフランクが完璧に管理しており、そこに暮らす限りは絶対の安全が保証されているというものである。

現代を舞台にしているとは一言も言っていないが、住人たちは時流と隔絶された、いわゆる古き良き時代の生活を送っている。

ブラウン管のテレビを見て、レコードで音楽を聴く。朝の決まった時刻になると、それぞれの家から夫たちが一斉に家を出て、クラシックなアメ車に乗って同じ職場へと向かって行く。

フランクは混沌を嫌悪し、対称性に正しさを感じているようである。その世界で違和感なく過ごす住人たちにどうやって気付きが訪れるのか。

アリスにとってのきっかけは隣人のマーガレットの異変であった。不安定で何かに怯えるような様子を見せる彼女に関し、周囲の人たちは一様に「彼女は病気で治療が必要」と言う。

しかし思い返せば、自分もときどき妙な幻想を見ることがあるし、卵料理を作ろうとしたら殻だけで中身がなかったというようなおかしなこともある。アリスの中に疑心が混じった好奇心が生まれた。

社会生活というのは、日々いろいろな人と出会って触れ合うことを重ねて経験値を積み上げていくものである。しかし、フランクは物理的に囲い込むことで、町の住民の成長を止めて思考の多様性を奪った。

彼の言うことは間違いない、彼に従っていれば大丈夫。シンプルな論理は、楽で気分がいい。でも、それが誤りだったとしたら?

世間を騒がせている新興宗教や社会の分断などは、シンプル思考が先鋭化したなれの果てという感じがする。気付けないのか、気付きたくないのか。

「気付いてしまった」アリスは、たとえ狂人に思われようとも同調に抗おうとするが、興味を引くのは、この世界の本質を理解した上で暮らしている住民たちである。

客観的に「すべてがおかしい」と見える世界が彼らにとっては理想郷であり、実はそれを多様性の面から否定することはできないのである。

この映画で最後まで分からなかったのは、フランクがなぜこの世界を作ったのかである。普通に考えれば金儲けなんだけど、ビジネスならアリスのようなケースを想定した危機管理はするはずなので、自分の理想郷を強引にでも拡大して世界を変えようとしていたと見る方が正しいのかもしれない。

ところどころ「?」が浮かぶ展開や演出もあったが、やはりこのジャンルに外れは少ない。

(80点)
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