私には、今回ばかりは池田信夫氏が妥当なことを言っていると思えます。
(池田氏、白川日銀総裁共に安倍氏のブレーン浜田宏一氏の教え子です)
ニューズウィーク
政治に屈服した日銀は2%のインフレを起こせるのか by 池田信夫氏
(2012年12月21日)
http://www.newsweekjapan.jp/column/ikeda/2012/12/2-2.php
日本銀行の白川総裁は、20日の金融政策決定会合後の記者会見で、物価水準の目標について「自民党の安倍総裁の要請を踏まえて検討することにした」と述べ、1月の会合で2%のインフレ目標の採用を検討する方針を明らかにした。日銀総裁が政治家の意向を受けて金融政策を変更するのは異例である。
(中略)
安倍氏はインフレ目標の意味を取り違えているようだが、これはインフレを起こすための目標ではない。主要国で唯一インフレ目標を法的に定めているイギリスが1992年にこれを設定したのは、ERM(欧州為替相場メカニズム)から離脱して変動相場制に移行し、ポンドの為替レートが変動することを防ぐためだった。
ERMでは一国だけがインフレ政策を取りにくいが、ポンドが離脱すると政治家が金融緩和を求めてきたとき、拒否するのがむずかしい。そこで2%以上のインフレを禁じてイングランド銀行の独立性を守るために設定されたのがインフレ目標なのだ。安定している物価をわざわざインフレにする目標を設定した国はない。
これほど安倍氏がインフレ目標にこだわるのは、来年夏の参議院選挙に負けると、5年前と同じように退陣を迫られるためだろう。自民党の集票部隊である土建業者に公共事業を発注するためには、国債を大量に発行するしかない。第2次安倍内閣で副総理兼財務相になると予想されている麻生太郎氏は「政府はいくら借金しても大丈夫」というのが持論で、来年度の当初予算も国債の新規発行枠44兆円をはずして100兆円を超える大型予算を組む方針だ。
要するにインフレ目標というのは目くらましで、本音はバラマキ公共事業のための財政ファイナンスなのだ。しかし日銀の国債保有高は100兆円を超えた。今は超低金利なので何も起こらないかもしれないが、日銀が大量に国債を買うと市場に「日銀はお札を刷って財政赤字を埋めているのではないか」という疑念をもたれ、国債が売られると長期金利が上昇(国債価格は下落)してインフレが起こり、それによってさらに金利が上昇する・・・というインフレスパイラルに入るおそれがある。
安倍氏は「インフレが2%になったら日銀が政策金利を上げればいい」というが、スパイラルに入ると金利上昇で銀行が含み損を抱えるので、政策金利を上げるとさらに損失が拡大する。日銀のバランスシートが悪化して100兆円以上の国債を売却したら、国債市場は崩壊して邦銀の多くは債務超過になるだろう。「ここで止めよう」と思った所では止まらないのだ。
政治家が中央銀行に金融緩和を求めるのは万国共通である。財源がなくなったとき中銀にお札を刷らせる誘惑に負けることも多いので、途上国では財政ファイナンスによるインフレは日常茶飯事だ。しかし日本でそんな政策をとると、1000兆円を超える政府債務という「時限爆弾」が爆発して、日本経済は粉々になるだろう。
各国でインフレ目標や政策協定(アコード)が結ばれているのはこういう政治的圧力を防ぐためであり、中銀を政治家の貯金箱に使うために政策協定を結ぶなどというのは世界の笑いものだ。日銀の独立性は、安倍氏のような政治家から通貨の信認を守るために定められているのである。