昨日、2011年1月以来、6年ぶりに東京都庭園美術館に行ってきました。
目黒駅から目黒通りを東へ歩くこと約5分、首都高速2号線をくぐった辺りに、こんな案内板がありました。
東京都庭園美術館がある辺りには、「松平サヌキ」と書かれています。
東京都庭園美術館は、旧朝香宮邸の建物と庭を引き継いだものですが(途中、西武グループが所有した時期があります。ヘタすれば、ここにもプリンスホテルが建っていたかもしれない)、その前は高松藩邸だったんですな。
前日、私の関心が香川県に集中(MISIAとかブラタモリ
とか…)していた名残かな? なんて考えたりして…。
で、東京都庭園美術館に到着!
1月14日から「並河靖之 七宝 明治七宝の誘惑-透明な黒の感性」が始まっています。
私、2009年10月に「皇室の名宝」展1期で「四季花鳥図花瓶」を観て以来(記事はこちら)、七宝というものに対する見方がガラリと変わり、京都の並河靖之七宝記念館には2回行きましたし、七宝を初めとする明治工芸の素晴らしいコレクションを誇る清水三年坂美術館にも行きました(訪問記
はこちらとこちら)。
約3か月間と、けっこう長い会期(日本画などに比べて七宝は強い)ですが、まだ大丈夫
なんてのんきに構えているうちに終わってしまった
展覧会が少なくありませんので、思い立ったが吉日
です。
さて、ルネ・ラリックによる華麗なガラス・レリーフ扉のある玄関から美術館に入ると、、、玄関ホールに展示されていたのは、「四季花鳥図花瓶」ではありませんか
東京国立博物館で拝見して以来、7年ぶりです。
ポスターやフライヤーには「四季花鳥図花瓶」が登場していなくて、展示されているのかどうか不安に思っていましたので、うれしいったらありゃしない
咲き乱れる山桜、風にそよぐ青もみじ、瞬間を捉えられた鳥たち、、、、美しい自然の一瞬が切りとられて、花瓶に封じ込められたかのようでした。
この1点だけでも観に行く価値あり だと思いました。
ただ、難を言えば、ライティングがイマイチ
だし、天井の照明が写り込んでしまって、 う~む…
旧お屋敷の照明を活かした場所に展示されていましたから、仕方ないわけではありますが…。
んでもって、今回の一番「お持ち帰りしたい」作品は、この「四季花鳥図花瓶」ではなく(ちょっとデカ過ぎる)、こちらでした。
とにかく、背景の黒がキレイ
潤いを含んだかのような漆黒が、竹や花、蝶の存在を引き立たせつつ、奥行きを感じさせます。
そして、主題と背景とのバランスの慎ましさ
いやはや、ホント、素晴らしい
出品作品の中に、面白いものがありました。
外国製のタバコ入れで、馬
の顔が描かれています。
このタバコ入れは、 並河靖之が朝香宮鳩彦王から賜ったもの。つまり、この展覧会の会場となったお屋敷を自分の趣味・趣向の趣くままで建ててしまった宮様から頂戴したものというわけです。
このお二人、因縁浅からぬものがあります。
並河靖之は川越藩士・高岡九郎左衛門の3男として京都に生まれ(1845年)、 1855年8月に青蓮院宮家の家臣・並河靑全の養子となったところ、同年10月に養父が亡くなったため、並河家の家督を継ぎ、そのまま青蓮院宮近侍になりました。その後、青蓮院宮は、還俗して中川宮⇒賀陽宮⇒伏見宮⇒久邇宮と改称しますが、その間、並河靖之はずっと宮様にお仕えしていました。
この久邇宮というのが、朝香宮鳩彦王の父、久邇宮朝彦親王なんですよ(今上天皇の曾祖父でもある)。しかも、並河靖之は、朝香宮の兄宮や姉宮の養育掛に任じられて、お二人を約2年間にわたって自宅に預かっていたこともありましたから、 並河靖之と朝香宮が互いに知らない間柄であったはずはありません。
並河靖之が亡くなって90年の時を隔てて、かつてお仕えした宮家の若宮の旧お屋敷で「回顧展」を開くことになろうとは、本人は想像もしていなかったことでしょうなぁ
ところで、宮家の家従だった並河靖之が「東の濤川、西の並河」と称される一流の七宝家になったのはなぜ? どんな経緯があったのでしょうか?
説明パネルによると、驚いたことには、久邇宮家からの給料だけでは生活できない
と副業として始めたのが七宝だったのだとか。
そして、1873年に七宝を始めてから、国内外の物産展に出品して評価を高めていき、1878年は久邇宮家を辞して七宝制作に専念、1976年頃には、横浜ストロン協会と5年間の契約を結ぶまでに至ります。
ところが、1881年、横浜ストロン協会から、「拙技を理由に契約の解除を申し渡される。窯の焼き損ないも重なり、負債を背負うことになる」というマズい状況に陥ってしまいます。
そして、ここで一大転機
図録の年譜(1881年)を引用しますと、
ストロン協会の厚意で東京・上野で開かれた第2回内国勧業博覧会を見学し、大いに刺激を受ける。
帰洛したのち、40人ほどいた職工の内20名を暇に出し、再び博覧会を訪れる。日光などを見学したのち、残りすべての職工に暇を出し、新たに5名を雇い入れる。
ストロン協会、尊敬するなぁ。
「拙技を理由に」契約を解除しながらも、ちゃんとフォローしているし、このできごとが、並河七宝のリスタートになったわけですから。
東京都庭園美術館に出かけたのは6年ぶりと書きましたが、この間に大きな変化がありました。
こちらによれば、2014年11月末に約3年間に渡る大規模な改修工事を終えて、
東京都指定文化財である旧朝香宮邸を継承した本館の設備改修、ならびに建物保存を目的とした調査、修復、復原を行い、そして新たに、ホワイト・キューブの展示空間が備わった新館が誕生しました。
「並河靖之 七宝」展の展示は、新館にも続いていまして、明るい渡り廊下を通って行きます。
この、
三保谷硝子製の美しいガラスのアプローチを抜けると、モダンで開放的な空間が広がります。
というガラスが面白い。
シボシボがついていまして、通り抜けた陽光がキレイな影をつくっていました。
また、この扉のデザインがおしゃれだぁ~
庭では、白梅はチラホラ、
紅梅はけっこう咲いていました。
でも、香りは、白梅の圧勝
ホント、いい香り。
まだまだ寒いけれど、春がやって来ることを予感させてくれる香りですな。
う~む、楽しかった