三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

テッド・チャン『あなたの人生の物語』(2)

2017年11月14日 | 

「地獄とは神の不在なり」
たまに、天使が降臨する世界。
何のために天使が降臨するのかはわからない。
天使が降臨すると、病気が治るなどの奇蹟がある一方、死傷者も大勢出る。
主人公の妻は天使が降臨した際に、割れたガラスに当たって失血死する。
妻は天国に行くが、夫は神を信じていないから地獄に落ちるしかない。
地獄といっても、神と永遠に縁がなくなる以外、人間界と変わらない。
しかし、夫は妻と再会するために天国に行こうとする。
天国の光を見た者は必ず天国に迎えられるので、夫は天国の光を見るために旅をする。
ところが、夫は天国の光で作り直されたにもかかわらず、結局は地獄に落ちる。
地獄に落ちるかどうかは、その人がしたことの結果ではなく、何の理由もない。

この世界の論理は、天国に行くか地獄に落ちるかは神があらかじめ定めていて、本人の信仰や努力は一切関係ない、しかも神の意思を人間が知ることはできないという、カルヴァンの予定説と同じです。

救われるかどうかは決まっていて、善行が意味を持たないのなら、何をしてもいいではないかということになります。

しかし、救われると定められた人間は神のお心にかなう行動をするはずだ、それでプロテスタントは禁欲的に自分の与えられた仕事を勤勉にはげむ。
このようにマックス・ヴェーバーは説明しているそうです。

人生、さまざまな不条理で理不尽な出来事がふりかかります。

真面目にしたからといって報われるとはかぎりません。
宗教とは、不条理な事柄に物語で意味を与えることにより、納得させ、受けとめさせるものだと思います。

カルヴァンの予定説によって人生の理不尽さがなくなるならば、それはそれでOKです。

私はそういう物語を信じようとは思いませんが。

『はじめて読む聖書』で、内田樹氏が哲学者のエマニュエル・レヴィナスについて語っています。

ナチスのユダヤ人虐殺を生きのびたレヴィナスは、なぜ死んだのは他の人で自分ではなかったのか、生き残ったものの責務は何かと問うた。
生き残った人間が「自分が生き残ったことには理由がある」ということを自分自身に納得させるためには、「死者たちがやり残した仕事をやり遂げる」しかない。
そして、仕事を託されたがために自分は生き残ったと思うしかない。

レヴィナスはユダヤ教の宗教文化を再構築することが自分の責務だと考えた。
ナチスによるホロコーストの後、多くのユダヤ人がユダヤ教から離れていった。
レヴィナスは若いユダヤ人たちにこう説いた。

人間が善行をすれば報奨を与え、邪な行いをすれば罰を与える。神というのはそのような単純な勧善懲悪の機能にすぎないというのか。もし、そうだとしたら、神は人間によってコントロール可能な存在だということになる。人間が自分の意思によって、好きなように左右することができるようなものであるとしたら、どうしてそのようなものを信仰の対象となしえようか。神は地上の出来事には介入してこない。神が真にその威徳にふさわしいものであるのだとすれば、それは神が不在のときでも、神の支援がなくても、それでもなお地上に正義を実現しうるほどの霊的成熟を果たし得る存在を創造したこと以外にありえない。神なしでも神が臨在するときと変わらぬほどに粛々と神の計画を実現できる存在を創造したという事実だけが、神の存在を証しだてる。


レヴィナスの考えはすごく説得力があると思いましたが、しかし神の不在、もしくは神が何もしないことをこのような形で意味づけしているようにも感じます。
神は世界を創造した後はほったらかしなのでしょうか。

田川建三氏が国際基督教大学で講師をしていたとき、毎週行われる礼拝でこんな説教したそうです。(『はじめて読む聖書』)

神は存在しない。神が存在するなぞと思うな。ただ、古代や中世で神を信ぜざるをえなかった人たちの心は理解しようではないか。
クリスチャンが考えている神は人によって全然違う。
神とはそれぞれの人間が勝手にでっちあげるイメージだから、それならむしろ、神なんぞ存在しないと言い切る方がクリスチャンらしいじゃないかということです。


田川建三氏は無神論というより不可知論だそうです。

私が不可知論と言うのは、知らないことについては、とことんまで何も言うな、ということです。少なくともその方が謙虚だと思います。わからない巨大な無限なものが向こうに広がっているというんだったら、正直に、その先はわからないのです、と言って、あとは黙って頭を下げればいいじゃないですか。

意味づけをしないということだと、勝手に解釈しました。

コメント
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