私が入っている点訳サークルでセンター試験の世界史問題集を点訳することになり、私は先史時代と古代オリエント、中国(元まで)を担当した。
私は世界史が得意だったけど、けっこう難しいというか、私が高校で習わなかった問題がかなりある。
たとえば「新人は更新世の初期に登場した」かどうかなんて習った記憶はないし(答えは×)、古代ペルシャ諸王朝の国王の名前とか東南アジア諸国の王朝名は世界史の教科書には載っていなかったように思う(たぶん)。
「ホスロー1世の治世中に起こった事柄を、次の①~④のうちから1つ選べ」
「ヴェトナムで、字喃(チュノム)と呼ばれる文字が使用され始めたのはどの王朝の時か、選べ。①李朝②阮朝③西山朝④陳朝」
という問題に答えられる高校生は30数年前にはほとんどいなかったのではないだろうか。
中にはやたら簡単な問題もあって、
「ブッダの教えは、カースト制を肯定するものであった」
「ナーガルジュナ(竜樹)によって、大乗仏教が体系化された」
といった問題はウフフで楽勝です。
点訳で困るのは、点字は平かなで文章を書くようなものなので、どんな言葉であろうともどう読むのかをちゃんと調べないといけない。
たとえば
「宋代の社会経済と関係が最も薄いものを1つ選べ。①占城稲②行・作③市舶司④新安商人」
という問題でも(これも習わなかったはず)、「占城稲」「行・作」「市舶司」「新安商人」の読みをいちいち調べなければならず、これがかなり面倒なのです。
ちなみに「行・作」は「こう」と「さく」なのだが、視覚障害者の人たちは「こう・さく」でわかるのだろうか心配になる。
人名もそうで、「王安石」は「おうあんせき」か「おうあんこく」か自信がないので辞書を調べたのだが、そんなのはまだいいほうで、「孔穎達」は「こう何とか」かと思ったら、なんと「くえいたつ」もしくは「くようだつ」なんだそうだ。
孔穎達が生きていた唐のころはどのように発音していたかわからないが、日本では「くえいたつ」「くようだつ」で読み習わしている。
いわゆる読みぐせです。
読みぐせというのは昔からそう読んだというわけではないらしく、たとえば『白氏文集』を「はくしもんじゅう」と読むのは明治中期ごろからだそうで、平安時代以降「はくしぶんしゅう」だったというのだから、読みぐせというのもいい加減なものである。
それで思いだしたのだが、「法身」をどうして「ほっしん」と読むのかと某氏から聞かれ、「読みぐせだ」と答えたことがある。
後日、「ほっしん」と読むのは音便かもしれないと思いついたのだが、ッ音便(促音便)はイ段の音がつまる音に変化するということなので、残念ながら音便ではないのだろう
「報身」を「ほうじん」と濁るのも濁音便ではないようだ。
となると、「報身」「法身」のどちらも「ほうしん」では混乱するから、「ほうじん」「ほっしん」と読み分けをしたということかもしれない。
『白氏文集』を「はくしもんじゅう」と読もうと「はくしぶんしゅう」だろうと相手はわかってくれるが、「法身」を「ほうしん」と読んだのでは話が通じない。
ある僧侶と話をしてて「三宝」は「さんぽう」か「さんぼう」か、うーんと頭を悩ました。
ほんと漢字の読みは難しい。
それはともかく、点訳サークルの人が「うちの子もセンター試験を受けるぐらいだったらいいのに」と言ってて、そうそうと思わずうなずいてしまったのでした。
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