三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

『銀幕のなかの死刑』2

2014年01月07日 | 死刑

死刑は犯罪の抑止になるとか、社会の秩序を守るために必要だとか、日本では8割が死刑に賛成しているとか、そういった死刑賛成論に反論することは難しくないが、被害者は厳罰を求めている、遺族の気持ちを考えれば死刑は当然だという被害者感情論は反論しにくい。
『銀幕のなかの死刑』にある、岡真理氏による『私たちの幸せな時間』の解説を読み、被害者感情が応報感情とイコールになったら問題だと思った。

殺したんだから、死刑によって命を奪うのは当然だと言うのなら、自動車事故で死なせた、加害者は自動車で轢き殺すべきだということになる。
実際、イエメンで加害者は轢き殺されたという。
岡真理氏は聞いた話としてこういう出来事を紹介している。

1970年代にイエメンで、フランス人が誤って車でイエメン人の子供をはねて殺してしまった。
「命には命」なので、子供を殺されたイエメン人の父親が、車でそのフランス人を轢き殺すことになった。
公開で行われ、その一部始終をフランス人の奥さんも観る。
轢いてもなかなか死ななくて、何度も何度も轢いたそうだ。

岡真理氏はイランでの例も紹介している。
言い寄った男性を断ったことを逆恨みされ、硫酸を顔にかけられたアームネ・バフラーミー(アメネ・バハラミ)さんに、硫酸を男の目に垂らして失明させる権利があるという判決が下った。
タヘレ・バハラミーさんが夫の不倫相手の女性に硫酸をかけられ、顔がただれて両眼を失明したという事件でも、タヘレ・バハラミーさんには相手の女性を同じように失明させる権利があるという判決が下りた。

こういう話を聞くと、イスラム世界は野蛮だと思う。
しかし、岡真理氏はこう異議をはさむ。

でも、「命には命を」だ、「殺したんだから死刑にすべきだ」と言う人たちが、「目には目を」の話を実践している社会の話を聞くと「野蛮だ」と言うとしたら、それはちょっとおかしいんじゃないか、論理が一貫していないように思います。


日本だって「命には命を」というので死刑がある。
ネットで調べたらアームネ・バフラーミーさんの写真を見ることができた。
日本で同じような事件があれば、ネットでは「加害者にも同じ目に遭わせろ」という論調の書き込みが少なくないと思う。

イランでは、死刑を執行するのはイエメンの場合と同じように遺族なんだそうだ。

イランは絞首刑ですが、首を縛られた死刑囚が立った死刑台の台座の羽目板を引いて死刑囚を落下させる、その羽目板を引くのは、遺族の役目なのです。


しかし、イランでは被害者は加害者を「許すこと」ができる。
被害者は、自分たちが被ったのと同じことを加害者に対して行う「権利」があるが、許すこともできる。
死刑囚でも、遺族が「許す」と言えば、死刑は執行されない。
アッラーは「許すことを喜びたもう」、許すことが神の教える道なのである。
アームネ・バフラーミーさんとタヘレ・バハラミーさんも、イラン政府が国際世論に配慮したこともあり、刑の執行をとりやめ、国のために加害者を許すと言ったそうだ。

日本ではどうなのか。

日本における死刑のあり方というのは、殺したんだから殺されて当然と、一見、命の重みということを言っているように見えながら、今の死刑制度の在り方というのは、まったく逆ではないのか。(略)殺す以上は、たとえ殺人者であっても、人の命を奪うということのその暴力性、その重みに、死刑を存置させているこの社会に生きている私たち全員が、きちんと向き合わなければいけないのではないかと思います。

日本では死刑囚も死刑執行も見えない。
そして、死刑は分業である。
死刑を求刑する検事、死刑判決を下す裁判官、死刑執行命令に署名する法務大臣、死刑囚を刑場に連れていく刑務官、首に縄をかける刑務官、ボタンを押す刑務官、遺体を片付ける刑務官。
だから、自分が殺したという意識が薄くなる。
ナチスのユダヤ人虐殺も、それに関わった多くの人は直接手を下していない。
自分に割り当てられた職務を忠実にこなしているだけだから、600万人という大量殺戮が可能になったと、岡真理氏は言う。

自分が運転する車のタイヤが何度も何度も、もがき苦しんでいる男性の上を行きつ戻りつするその感触を、つまり、自分は生きている人間の命を奪ったのだという記憶を一生涯、抱えて生きることになる。息子を殺した男が殺されたからと言って、息子の仇をとってやったぜ、というような晴れ晴れとした幸せな気持ちになど、なれるはずがない。でも、殺人犯であれ、人の命を奪うとはそういうことではないのでしょうか?
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