入江杏『わたしからはじまる』と中谷加代子、小手鞠るい『命のスケッチブック』を読むと、犯罪を犯した人との関わりも、被害者の救いへの道の一つかもしれないと思いました。
入江杏さんはこう書きます。
原田正治さんも同じことを話しています。
入江杏さんは「もし加害者が発見され、逮捕されたならば、なぜこのような事件を起こしたのかを知りたい」と言っています。
しかし、入江杏さんのの妹一家4人を殺した犯人はまだわかっていません。
中谷加代子さんの娘さんを殺した犯人は自殺しました。
加害者に「なぜ」と問えません。
それでも入江杏さんは中谷加代子さんとの出会いをきっかけとして保護司になったそうです。
中谷加代子さんは犯罪被害者支援だけでなく、加害者の更生のため刑務所や少年院に訪れて話をするなどされています。
中谷加代子さんは罪を犯した人に呼びかけます。
被害者は置き去りにされているのに、加害者の人権ばかりが大切にされていると言う人がいます。
しかし、更生は甦り、人生のやり直し、生き直しです。
再犯を防止することは新たな被害者を生まないことでもあります。
中谷加代子さんは最初から更生保護の考えを持っていたわけではないようです。
『命のスケッチブック』でこう語っています。
非公開というのは、秘密にする、ということです。
言いかえると、容疑者は保護される、ということにもなります。
殺された歩のことは、何もかも公開されるのに、容疑者のプライバシーと情報は守られる。
わたしたち被害者の家族にとっては、本当に理不尽で、無念なことです。(略)
当時の心境としては、このような少年法に対するもどかしさがありました。
ただ、今現在のわたしの考え方は、当時とは少し、違ってきています。
情報の公開や、少年を大人と同じ法で裁いたりすることによって、果たして犯罪を防止・抑制することができるのだろうか、ひいては、命を救うことができるのだろうかと、疑問を感じるからです。
少年法に納得できない気持ちがあったのに、どうして少年法改正に疑問を感じるように変化したのでしょうか。
中谷加代子さんの思いの根底にあるのは、「歩ならどうするか」ということだからだと思います。
https://news.yahoo.co.jp/feature/710/
わたしたちの苦しみは、軽くなるどころか、ますます重く、深くなっていきます。
加害者が死んでしまったとしても、歩はやはり、もどってきません。
失われた命は、たとえ命によってでも、つぐなうことは、できないのではないでしょうか。
なぜなら、失われてしまった命はもう二度と、もどってこないのですから。
でも、もしも、つぐなう方法があるとすれば、それは、加害者がそのあとの人生をどう生きるか、その人生のなかにこそ「つぐなう」ということのヒントというか、答えというか、なんらかの方法があるのではないかと、わたしは思っています。
もしも彼が生きていたとすれば、わたしは彼に、自分のしたことに正面から向き合ってほしかったと思います。
もちろん、反省もしてほしかった。
こんな経験を語っています。
裁判官が被告に対して、こう問いかけました。
「あなたは今、亡くなった被害者の方々に対して、どういう気持ちでいますか」
被告は、ひとことか、ふたこと、ことばを発したあと、だまってしまいました。
事故からは二か月か、三か月かが過ぎていたと思います。
彼が黙っているあいだ、あたりには、冷たい空気が漂っていました。
傍聴席に座っていたわたしは、ほかの人たちとはちょっと、ちがったことを思っていたのです。
事故から二か月か三か月かそこらで、被告の心にはまだ、本当の意味での反省、本当の意味での謝罪の心は、育っていないのではないかと。
そういう気持ちがないのに、反省していますとか、お詫びしますとか、言えないでいるのではないかと。
だから、だまっている。
そういうことなら、それはそれで仕方がない。
わたしはそう思っていました。
事件後すぐに反省や謝罪の気持ちは生まれません。
時間が必要なんです。
人を殺しました、ごめんなさい。
そんなこと、ぱっと思えるわけがない。
悪いことをしたら、そのことを反省し、謝罪するのは人間として当然のことです。
しかし、自分が何をしてしまったのか、どのように傷つけたのか、そうしたことに気づくには時間がかかりますし、その事実と真向かいになることが難しいのは、私たちも同じです。
反省や謝罪をするための時間を奪うのが死刑です。
生きて、生きて、生き抜いていって、いつか歩に会えたとき、
「おかあさん、あの事件のあとも、一生けんめい生きたよ」
って、そう言いたいんです。
胸を張ってそう言えるような人生を、生きていきたいと思います。
空が青いなと思ったら、ああきれいだな、小鳥の声が聞こえたら、ああかわいいなって笑顔になれる、そういう幸せを日々、感じながら。
中谷加代子さんは死刑に反対だそうです。