三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

ジェシカ・ブルーダー『ノマド 漂流する高齢労働者たち』(1)

2021年08月04日 | 

クロエ・ジャオ『ノマドランド』の原作ジェシカ・ブルーダー『ノマド 漂流する高齢労働者たち』を読みました。

ネバダ州エンパイアは人口300人の石膏ボードを製造する工場町だったが、2010年、工場が閉鎖されることになり、エンパイアはゴーストタウンになった。

『ノマドランド』は、町が消滅して自宅を失い、ノマド(放浪の民)という生き方を選んだ女性が主人公です。

2000年代に入って、ガソリンと食料を買うために季節労働に従事し、安眠できる場所を求めて車で移動を続ける高齢者が増えた。

『ノマドランド』に出演したリンダ・メイは『ノマド 漂流する高齢労働者たち』にも登場しています。
2002年、レジ係(時給10ドル50セント)をしていたが、トレーラーハウスの賃料は月600ドルをやっと払えるかどうかの額。
12歳から働いているが、年金は月524ドルで、65歳になると424ドルになるので、年金だけでは生活できない。
リンダ・メイの娘一家(夫婦、子供3人)の住むアパートは寝室の数が足りず、孫息子は台所で寝ている。
娘の夫が病気になったためにアパートの家賃が払えなくなり、娘夫婦は十代の3人の子供とともにトレーラー暮らしになった。
リンダ・メイはノマドという生き方を選ぶ。

高収入だった人、安定した雇用と年金の中流階級の暮らしをしていた人もいる。
家を持ち、資産もある中流階級がなぜ車上生活者になり、季節労働をするのでしょうか。

『ノマド 漂流する高齢労働者たち』と町山智浩『トランピストはマスクをしない』によると、不動産価格の高騰に収入が追いつかないからです。

アメリカでは、4%の超富裕層が全米の富の40%を独占している。
平均的な所得者の税率が28%なのに対し、超富裕層の税率は23%。
なぜなら、富裕層の収入の多くは持ち株の利益で、株式収入への課税率が低く抑えられている。
富裕層への課税率が上がらないのは、政治家に献金しているから。

アメリカの貧困率は大恐慌時代の1930年が最大で、1960年代に最小になった。
ルーズベルト大統領はニューディール政策で、富裕層への課税率を63%に上げた。
第二次世界大戦中は最大94%、戦後も70%に維持され、法人税は最大50%。
そうして中流階級が拡大し、巨大な消費者となって企業を潤した。
当時、平均家賃は平均収入の28%だった。

しかし、レーガンは富裕層への課税率を50%にし、さらに28%まで下げ、福祉を削減したため、経済格差が開いた。
さらにトランプは富裕層の税率を23%に、法人税を21%にさげた。

アメリカでは2008年の金融危機から11年も好景気が続き、株価は上がり続け、失業率は過去25年間で最低レベルの3.5%に下がっている。
それなのに、仕事を失い、貯蓄を失い、ホームレスやノマドになる人がいる。
それは不動産価格が高騰し、家賃が上がるスピードに最低賃金が追いつかないから。

マンハッタンの平均家賃は月4245ドル、ブルックリン2936ドル、サンフランシスコ3733ドル、ロサンゼルス2530ドル、クイーンズでは2412ドル。

ネットで調べると、金額はいろいろのようですが安くはない。
2019年の記事によると、マンハッタンで快適に生活するために必要な年収の平均は11万5800ドルで、住民の年収平均の倍近く。家賃の平均はの4190ドル。
https://www.dailysunny.com/2019/08/06/nynews190806-21/

こちらも2019年の記事。
マンハッタンの平均的なマンションでは、1カ月の家賃は3000ドル以上で、アメリカでニューヨークよりも家賃が高いのはサンフランシスコだけ。
マンハッタンの2019年1~3月期の平均家賃は史上最高となる3217ドル。マンハッタンの中でも最も安い最北端のインウッド地区でも1623ドル。
https://www.businessinsider.jp/post-192555

ジョン・M・チュウ『イン・ザ・ハイツ』は、マンハッタン北部のワシントンハイツが舞台。
住民の多くはドミニカ人です。
ダウンタウンの部屋を借りようとしたら、家賃の40倍の年収証明書が必要だと不動産屋が言います。
ワシントンハイツはワンルームマンションの家賃が1669ドルで、マンハッタンで2番目に安い。
安いといっても、40倍だと約6万4千ドル。
年収が600万円以上ないといけないことになる。

別の記事によると、1980年から比べると、アパートメントの家賃は場所によっては6倍から10倍程度に跳ね上がった。
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/17336

もっとも、コロナの影響で家賃が下がったそうです。
2021年1~3月期のマンハッタンの家賃の中央値は前年同期比17%減の月額2700ドルで、集計を開始した10年以来で最低。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN270H60X20C21A4000000/

ニューヨーク周辺の最低時給はよくて15ドル。
休日や深夜残業して月に3000ドル稼いで、家賃1000ドルくらいのアパートなら生活できるが、貯金はできない。

ニューヨークだけの話ではありません。
家賃の3倍が理想的月収だが、収入の半分以上を住居費に費やしているアメリカ人家庭は6世帯に1世帯。
住居費を収入の30%以下に抑えたければ、連邦政府が定める最低賃金の倍以上、少なくとも時給16.35ドルは稼ぐ必要がある。
法廷最低賃金で働く正社員の収入でワンベッドルームのアパートの賃貸料をまかなえる地域は、全米で11の郡と大都市圏が1つだけ。

会社の倒産、解雇、病気、怪我などで仕事を失った人。、
離婚(訴訟費用や養育費の支払い)で破産した人。
修士号や博士号を取っても仕事がない人。
学生ローンを返却できない人。
リーマンショックによる金融危機で資産を失った人。

ぎりぎりの生活の人たちは、いつ家賃の支払いや住宅ローンの返済ができなくなって、住む場所を失うかわからない。

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