三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

宮口幸治『ケーキの切れない非行少年たち』(1)

2021年04月16日 | 厳罰化

少年法などの改正案が衆議院法務委員会で可決されました。
18歳と19歳を特定少年と位置づけ、家庭裁判所から検察官に逆送致する事件の対象を拡大すること、起訴された場合には実名報道を可能とすることを盛り込んでいます。

少年犯罪は減っているし、凶悪化もしていないのに、なぜ厳罰化するのでしょうか。
精神科医であり、医療少年院で法務技官として勤務していた宮口幸治さんの『ケーキの切れない非行少年たち』は、「丸いケーキがあります。これを三等分にしてください」という問題に非行少年は答えられないということから題名がつけられています。
厳罰化は再犯防止や更生につながらないことがわかります。

 非行少年の生育歴
小学校2年生くらいから勉強についていけなくて、友だちから馬鹿にされたり、イジメに遭ったり、先生から不真面目だと思われたりする。
親や本人に障害があったり、家庭内で虐待を受ける子もいる。
学校に行かなくなり、暴力や万引きなどの問題行動を起こし始める。
小学校では厄介な子として扱われ、障害があっても、その障害に気づかれることはほとんどない。
社会に出ると、要求度の高い仕事を与えられ、失敗すると責められ、嫌になって仕事を辞め、職を転々としたり、対人関係がうまくいかずひきこもりになったりする。
自分は普通だと思っているので、自分から支援を求めようとはしない。

 少年院の子はどんな少年か
・簡単な足し算や引き算ができない
・漢字が読めない
・簡単な図形が写せない
・短い文章すら復唱できない
「今の首相は誰?」「オバマです」

大岡由佳さんは少年院に入った少年について、「表面的には言葉にできても、なぜそうしたのか、自分の行動を説明するのが困難なようです。本人にもよく分からない場合も多いと思われます」(「更生保護」12月号)と書いています、

海外の文献では、少年院入院者の75%から93%が何らかのトラウマの犠牲になっていると報告されており、日本でも少年院入院者の被虐待経験率は身体的虐待が男子21.9%、女子28.9%、少年鑑別所入所者は被虐待経験率が35.7%に見られ、トラウマが背景にあるかもしれない。

非行少年に、非行の反省や被害者の気持ちを考えさせるような従来の矯正教育を行なっても、ほとんど意味がない。
反省以前の問題で、岡本茂樹『反省させると犯罪者になります』を読んだとき、「反省できるだけでも上等ではないか」と宮口幸治さんは感じたそうです。

 非行少年に共通する特徴5点+1
① 認知機能の弱さ
見る力、聞く力、想像する力が弱く、不適切な行動につながる。
見る力の弱さ 相手の表情を見ることができない。
聞く力が弱さ 誰かが独り言を言ってるだけでも、悪口を言ってると誤解する。
想像する力が弱さ 五感から入った情報の歪みを修正できない。
このため、勉強が苦手、話を聞き間違える、周りの状況がよめなくて対人関係で失敗する、イジメに遭うなどする。

想像力が弱ければ努力できない。
バイクを買うためには何か月もアルバイトをし、生活を切り詰める必要があるが、他人の努力が理解できないと、努力してバイクを手に入れたことに思い至らず、簡単に盗んでしまったりする。

時間の概念が弱い子どもは〝昨日〟〝今日〟〝明日〟の3日間くらいの世界で生きています。場合によっては数分先のことすら管理できない子どももいます。このような子どもは、
〝今我慢したらいつかいいことがある〟
〝1か月後の部活の試合や定期試験に向けて頑張る〟
〝将来、○○になりたいから頑張ろう!〟
といった具体的な目標を立てるのが難しい。
目標が立てられないと人は努力しなくなります。努力しないとどうなるでしょうか。二つ困ったことが生じます。一つは、努力しないと成功体験や達成感が得られないため、いつまでも自信がもてず、自己評価が低い状態から抜け出せないことです。もう一つは、努力しないと、〝他人の努力が理解できない〟ことです。

「今これをしたらこの先どうなるだろう」といった予想も立てられず、その時がよければそれでいいと、後先考えずに周りに流されてしまったりする。

② 感情統制の弱さ
気持ちを言葉で表すのが苦手で、すぐ「イライラする」と言う、カッとするとすぐに暴行や暴言が出るという子どもたちは、何か不快なことがあると、心の中でモヤモヤするが、自分の心の中でどんな感情が生じているのかが理解できず、モヤモヤが蓄積してストレスへと変わっていく。
厄介なのは、「ストレス発散に○○したい」という文章の○○に〝万引き〟〝痴漢〟などの不適切な言葉が入る場合。

③ 融通の利かなさ
お金が必要だが、お金がないという状況で、
A アルバイトをする
B 親族から借りる
C 宝くじを買う
D 強盗する
という選択肢があっても、融通が利かないのでDの解決案しか出てこない。
解決案が一つしか出てこないと、それが最適な解決法かどうかわからないし、同じ失敗を何度もしてしまう。

・思いつきでやることが多い→いったん考えることをせずにすぐに行動に移してしまう。気づきが少ない。見たものにすぐに飛びつく。だまされやすい。過去から学べず同じ間違いを繰り返してしまう。

・一つのことに没頭すると周りが見えなくなる→やる前から絶対こうだと思って突き進む。思い込みが強い。一部にしか注意を向けられず、ヒントがあっても注意を向けられない。見落としてしまう。

融通の利かなさが被害感につながり、目が合っただけで「にらんできた」と思ったり、肩が触れただけで「わざとやった」と思う。

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