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三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

永江朗『私は本屋が好きでした』(2)

2021年03月18日 | 

古谷経衡さんへのインタビューが永江朗『私は本屋が好きでした』にあり、これが面白い。

ネット右翼はなぜ反米に向かわないのかという質問の答え。

それは、ネット右翼というのは思考力が低いから。彼らは自分の基礎的な歴史についての知識がないので、だれかに依存しないではいられないんです。産経新聞や『正論』など既存の保守は親米右翼です。ネット右翼は産経新聞や『正論』を読んではいないんですけど、そこに寄稿している人が動画とかで言っていることに依存する。櫻井よしこさんはじめ、ネット右翼が寄生する言論人は親米ですよね。いまの保守派主流。そうじゃない人もいますよ。西部邁さんとか。でも西部さんだと難しすぎる。「アプリオリとか言われてもわからないですから(笑)。


在日特権という幻想はどこで生まれたのかという質問の答え。

ゼロ年代に入って同和対策特措法が終了しますよね。そのとき『別冊宝島』で『利権の真相』が出ます。ネット右翼はあれと混同していますよね。あそこで書かれていた、関西での行政と団体の癒着―住宅費を払っていないとか、特別な融資があるとか、冠婚葬祭の費用を市役所が出すとか、運転免許の取得費を出すとか―それをぜんぶ在日コリアンに置き換えたのが在特会の主張です。と在日は根本的に違うものなんですけど、そのへんがわかっていない。
そもそもネット右翼には西日本のことがわからない。関東ですから。ネット右翼が東京と神奈川に集中しているのは、本当のことを知らないからです。在日コリアンのことものこともなにも知らない。なにも知らない東京の中産階級がネット右翼の主体なんです。(略)
ネット右翼の人たちは驚くほど西日本のことをしらないですよね。逆にいうと、ネット右翼って西日本にはあんまりいないんですよ。だって、言っていることが嘘だってわかっているから(略)
ネット右翼というのは首都圏の中産階級、あるていど時間とお金に余裕のあるサラリーマンとか主婦とかが多い。初めてネットで在日特権なんていう言説に触れてカルチャーショックを受ける。在日コリアンと触れあったこともないし、身近に朝鮮学校も存在しないし、地区も存在しないというところで育つと、「やっぱりなんかあるんじゃないか」と思う人もいる。


日本礼賛本、自画自賛本について。

本当に強い人間は強さを言わないのと同じです。バブルの時代の風俗を見ていくと圧倒的に自虐ですよね。「日本人はマナーも悪い」と、いま中国に対して言っているのと同じことを当時は言っていた。(略)かつて(のSF)は日本が破滅していくパターンが多かった。それは自信があったからです。それが人間の心理でしょう。
いまはどう見ても衰退しているので、自国を賛美しないといけない。(略)
誇らなければいけないというのは、どこかに後ろめたさがあるからでしょうね。日本が衰退していくという数字がありますから。

日本は素晴らしいという日本礼賛本はヘイト本の裏返しで、日本礼賛本が売れるのは日本の状況が悪いから。

林真理子さんのセウォル号沈没事故を受けての言葉(日本人賛美)が武田砂鉄『紋切型社会』に、引用されています。

あえて戦時中の新聞みたいなことを言わせてもらうけれども、船長にしてももし日本人ならこんなことはしなかったと思いますよ。乗客をすべて見捨てて、まず自分がまっ先に逃げる船長などということは規律と責任を何より重んじるわが国ではあり得ない。偏見と言われてもいい。日本人なら絶対にあんなことはしません。(「週刊文春」2014年5月1日号)

このように日本人を礼賛していますが、ソ連が満州に侵攻すると関東軍が逃げ出したり、部下を置いて逃亡した中将がいたりします。

ちなみに、安倍首相が立ち上げた日中歴史共同研究で、南京事件について日本側座長の北岡伸一東大教授は「虐殺があり、基本的な責任が日本側にあった」ことは日本側も認めています。
https://www.afpbb.com/articles/-/2677989

古谷経衡さんによると、ネトウヨの中心層は40代で、ヘイト本読者は70歳前後。
ネトウヨは知性に劣り、自分で考えることができず、書物を読みこなすことができないから、ヘイト本も読んではおらず、わかりやすい右派の言説に寄生する。
永江朗さんは、ヘイト本を買う客は中高年の男性が多く、50代以上、あるいは30代以上で、知識層は少なくないが、学生はヘイト本にほとんど関心を持っていないと書いています。

しかし、安田浩一さんが高校生や大学生に講演した感想ではネトウヨ像はまた違ったものです。

偏差値が高い学校ほどネトウヨが多いんですよ。たとえばだれでもは入れるような偏差値レベルの学校だと、わりと聞いてくれているんですよね。(略)ちょっと偏差値の高い学校だと、ぼくが批判されることも多い。「安田さん、ちょっと待ってくれ。あなたは在日差別はいけないというけれども、その原因を考えたことがあるのか。在日がいかに日本人を差別してきたか知っているのか」と言って彼らが持ちだす事例が、まさにネットや嫌韓本で書かれていることなんですね。明らかにネットやヘイト本の影響を受けているんです。


ネットで引用・援用されるロジックをヘイト本が供給している、つまりヘイト本単体としてみるのではなく、その影響を含めて考えなければいけないと安田浩一さんは言う。

いま在日コリアンに向けてヘイトスピーチする人びとの心の底には、日本がどんどん落ち目になっていくことへの焦燥感や恐怖感と、東アジアに対する根拠のない優越感と侮蔑感とが混在している。彼らは自分が被害者だと思っている。そして、それを刷りこんでいるいるのがマスメディアだと安田さんは言うのだ。


満たされない現状を認めることができず、事実に基づかない主張をすることはヘイト本だけの問題ではなく、スピリチュアル本、健康本、疑似科学本、歴史修正主義本なども同じだと思います。

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