三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

永江朗『私は本屋が好きでした』(1)

2021年03月10日 | 

ネトウヨ本・雑誌の広告を見るたびに、こんなのを読む人、信じる人がいるのか不思議に思います。
それで永江朗『私は本屋が好きでした』を読んでみました。(永江朗さんはネトウヨ本ではなくヘイト本としています)

なぜヘイト本は売れるのかというと、本が売れなくなったということがある。
書籍の単行本の初版はせいぜい数千部程度で、芥川賞をとったことのあるような名の知れた作家の本でも、初版は4千部から6千部ぐらい。
初版1万部以上というのはかなり人気のある作家。

出版社が取次に卸すのは本体価格の66~72%程度。
取次のマージンは7~9%ぐらい。
本屋の粗利はだいたい20%から25%ぐらいなので、1000円の本を売って得られるマージンは200円ちょっと。
1000円のドリンクのマージンは800円だから、ドリンクのほうがずっといい。

1980年の新刊発行点数は2万7709点だったが、2018年は7万1661点に増えている。
これにムックやコミックなどを加えると10万点前後になる。

1975年から2015年の40年間で、書籍の発行点数は3倍以上に増えたが、1年間に売れた書籍の冊数はほぼ同じ。
雑誌の販売金額・販売部数はピーク時の1990年代の後半に比べると3分の1にまで落ち込んだ。
書店数は2001年の2万1000店から半減した。

書籍の平均返品率(金額ベース)は約4割。
大手出版社は返品を2割ぐらいと見込んで価格や初版部数を決める。
中小出版社は3割、4割と見込む。
大手は発行点数が多いので、ヒット作で埋め合わせることができるが、中小の場合はその確率が低いため。

出版社は経営が苦しくなると本をたくさん出そうとする。
つくった本を取次に納入すればお金になるから。
本屋は経営が苦しくなると、どんどん本を返品する。
返品すればお金が戻ってくるから。

本屋は自分の好きな本をそろえると思ってましたが、ほとんどの書店は取次から配本される本を並べるだけだそうです。

ハラスメントとは「悩ますこと、いやがらせ」などの意味で、harassは古フランス語のharer(犬をけしかける)からきている。

ヘイト本を永江朗さんは「差別を助長し、少数者への攻撃を扇動する、憎悪に満ちた本」と定義します。

ヘイト本は「嫌韓反中本」と呼ばれることもあるが、誤解を生じる恐れがある。
中国や韓国を批判する本とヘイト本とは違う。
中国政府の政策や中国共産党への批判、あるいは毛沢東についての批判などは、どういう立場で書かれたものであれ重要である。
しかし、中国政府や韓国政府と、中国人一般・韓国人一般を同一視するのは間違っているし、ましてや中国や韓国にルーツをもつ人を攻撃するのも間違っている。

安倍晋三を批判したからといって、それを「安倍ヘイト本」とは言わない。
なぜなら、そこで批判しているのは安倍政権の政策や安倍晋三の思想であり、安倍政権や安倍晋三個人への差別を助長し、攻撃を扇動するものではない。

政府や政策への批判はかまわないが、その人の意思では変えられない属性(性別・民族・国籍・身体的特徴・疾病・傷害・性的指向など)を攻撃する言葉は、批判ではなく差別。

ヘイト本は「在日特権がある」「韓国と北朝鮮が日本に攻めてくる」「中国が日本を則ろうとしている」といった幻想の上に成り立っている。

ヘイト本が巧妙なのは、タイトルや見出しも含めて、一見すると韓国政府の政策を批判したり、韓国社会を批判しているかのように装いながら、「韓国人だからダメなのだ(そして韓国にルーツをもつ人もダメなのだ)」と思わせるように書かれているところです。


ヘイト本を作る出版社はイデオロギーからではなく、売れるから出すのがほとんど。
ヘイト本を刊行する出版社は、経営陣も含めてそっち方面の従業員が多い出版社もあれば、講談社や小学館、新潮社、文藝春秋のような大手出版社からも出ている。

編集者も売れるからという人が主流で、ヘイト本の読者をバカにしている。
排外的な考えを持ち、内容を信じている人もいるが少数派。
このことはヘイト本が一部の出版社や編集者だけの問題ではないことを示している。

編集者、取次の従業員、書店員は与えられた仕事をこなすだけで、仕事の意味について考えようとしない出版界はアイヒマンだらけ。

嫌韓・反中を煽り煽られる日本人と、反ユダヤ人を煽り煽られるドイツをはじめとするヨーロッパの人びとが似ていると感じるのだ。
在特会が主張する「在日特権」なるものは虚構だ。(略)しかし、でっちあげであれなんであれ、「不当に利益を得ているヤツがいる」「彼らを許すな」と焚きつけられ、燃え上がる人びとがいる。しかも彼らのなかの少なからぬ人びとは正義感に駆られ、それが正しいことだと信じている。(略)人は目のまえに共通の敵があらわれるとにわかに徒党を組み、興奮し、理性を失い、熱狂し、陶酔する。学校のイジメと同じだ」
「人は騙されやすい。騙されやすいからこそ、差別は拡大されやすく、憎悪は扇動される。そこに火をつけ、燃料を供給するのがヘイト本だ。
いま、欧米のイスラム教徒や中東出身者が「自分もテロリストと混同されてひどい目に遭うのではないか」と怯えるように、あるいは、KKKの亡霊に怯えるアフリカ系アメリカ人たちのように、在日コリアンは不安な日々をすごしている。自分や家族が傷つけられるのではないかと。幼い子供をもった人は胸がつぶれる思いだろう。


ヘイト本を「仕事だから」と割り切って作る編集者、営業する担当者は公害企業の従業員や経営者と似ている。
古河鉱業の従業員は足尾銅山鉱毒公害についてどう考えていたのか。
チッソの従業員は会社が出す廃液が水俣病を引き起こすことをどう考えていたのか。
東電の従業員は原発事故と放射性物質による汚染をどう考えているのか。

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