三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

パトリック・キングズレー『シリア難民』

2017年09月12日 | 戦争

パトリック・キングズレー『シリア難民』の原題は「The New Odyssey」。
題名から、シリアからの難民だけかと思ったら、サハラ砂漠以南やエリトリア、アフガニスタン、イラクなど他の国からの難民も取り上げています。
難民は、リビアやエジプトから密航船でイタリアへ、あるいはトルコからギリシア、バルカン半島を経由してドイツ、スウェーデンへ。

2015年に取材して書かれた本なので、現在は状況が違っていると思います。
2014年にリビアやエジプトから密航船でイタリアに到着した人は約17万人。
2015年には85万人以上がトルコ経由でギリシアの島を目指した。

難民危機はEUに亀裂をもたらした。

ヨーロッパの人口は約5億人だから、85万人は0.2%なので、適切に対処すれば吸収できる数だし、移民の流れを管理するシステムを立ち上げれば、危険な海の旅に出ずにすみ、難民流入を秩序立てて管理できたはずだ。

西アフリカ、あるいはエリトリアやスーダン、ソマリアからリビアに行くには、サハラ砂漠を1週間かけて越えなければいけない。

ピックアップトラックに押し込められた人たちの中には、荷台から転げ落ちたり、熱中症になって死ぬ人がいるし、道に迷って死ぬこともある。
運び屋に身代金を請求され、家族や知人が支払うまで監禁されて拷問を受けることもある。

リビアに着いても、待機所に監禁され、家族に代金が請求され、支払われるまで監禁と拷問が続く。

食事は1日1回で、女性は強姦される。
口絵の写真に、船にあふれるばかりに大勢の人が乗っている写真があります。
横になることもできず、糞尿や嘔吐のにおいが満ちている。

パトリック・キングズレー自身もトルコからギリシア、バルカン半島を歩いています。

ギリシャへのゴムボートが転覆することもあるが、トルコではニセモノの救命胴衣が売られている。
途中で逮捕されて送還されたり、盗賊に金品を奪われるかもしれない。
運び屋を頼むと、冷凍車の中で窒息死するかもしれない。

そこまでしてヨーロッパ-に行こうとするのはなぜか。

社会福祉制度に寄生し、安楽な生活を求めているからだと考える人がいる。
そして、政府の閣僚やメディアは不安感を煽る。
日本でも、「何の苦労もなく 生きたいように生きていたい 他人の金で。 そうだ 難民しよう!」と書かれたイラストを描いた人がいます。
シリア難民は「なりすまし難民」だというわけです。

だけど
、イギリスのメイ内相(現在は首相)は「彼らは難民だという声があるけれど、地中海を渡ってくる人たちをよく見ると、大部分はナイジェリアやソマリア、エリトリアから来た経済移民だ」と語っているそうで、考えていることはこのイラストレイターと同じでしょう。

しかし、『シリア難民』によると、海を渡ってヨーロッパに来る人の84%が、難民発生国トップ10に入る国の出身。

ナイジェリアの北部はボコ・ハラムによって100万人以上が、ソマリアはアル・シャバブによって100万人以上が避難を強いられている。

アフリカで最多の難民を生み出しているのはエリトリア。

世界最悪の人権弾圧国と言われており、検閲国家ワースト10の第1位、世界報道自由ランキングでも最下位。
総人口に対する難民発生率では世界一で、毎月5千人の難民を生み出し、人口の約9%が難民になっている。(エリトリアの人口は511万人から630万人)
国連によると、2014年半ばまでに約35万7千人が国外脱出している。

エリトリアには憲法がなく、一党独裁で、選挙もない。

警察は裁判を経ずに人々を刑務所に送りこみ、処刑されることもある。
そして、ナショナル・サービスといって、男女を問わず16~17歳以上の国民を政府が無期限に管理する制度がある。
政府は、対象者の住む場所、従事する仕事、家族と会う頻度などをすべて決める。
国民は奴隷の状態に置かれている。
しかし、スパイ網を構築しているので、人々は家族や友達とも政治を話題にできない。
リビアからヨーロッパを目指すのがどんなに危険か知っていても、エリトリアの状況のほうがもっと悲惨だから、エリトリア人はリビアを目指す。

ヨーロッパが難民を保護しないから、命の危険を冒しても密航業者に頼らざるを得ない。

これはエリトリアだけではありません。
パトリック・キングズレーが何百人もの難民に「なぜ命の危険をおかしてでもヨーロッパに行こうとするのか」と聞くと、最も多かった答えは「ほかに選択肢がないから」だった。
ヨーロッパを目指して失敗しても、失うものは何もない。

道理にかなった長期的な対策は、莫大な数の難民が安全にヨーロッパに到達できる法的メカニズムを整備することだ。

第二次世界大戦後、そしてベトナム戦争後、ヨーロッパは大勢の難民を定住させているからできないはずはない。

だったら日本はどうでしょうか。

約1億2千万人の人口の0.5%、60万人の難民を日本国民は受け入れるかどうか。

「アムネスティ・ニュースレター」vol.471に「南スータンからの難民を受け入れているウガンダ」という記事があります。


2013年に紛争が始まって以来、これまでに180人超の人たちが南スータンを逃れ、近隣諸国で避難生活をしている。

その半数を受け入れているのがウガンダで、今も日に千人がやって来る。
難民には居住と農耕用の土地が与えられ、医療や教育などの公共サービスをウガンダ国民と同じように受けられる。
しかし、ウガンダは豊かな国ではなく、巨額の負担がのしかかっている。
国際社会に支援を求めているが、2017年に必要な20億ドルには遠く及ばない。

ウガンダだけでなく、2015年の時点で約120万人ものシリア難民を受け入れているレバノン(人口450万人)などの国に必要な援助金を国際社会は拠出すべきでしょう。
日本もせめてそれくらいはしないといけないと思いました。

(追記)
国連UNHCR協会「With You」第38号

「地中海を渡り、ヨーロッパに上陸した人の数の推移」
東ルート(トルコからギリシャ)
2015年 856,723人
2016年 173,450人

中央ルート(リビアからイタリア)
2015年 153,842人
2016年 181,436人

西ルート(モロッコからスペイン)
2015年 3,592人
2016年 4,971人


 

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