アレクサンダー・ナナウ『トトとふたりの姉』は本当にドキュメンタリーなのかと思いました。
ルーマニアのブカレストに住むトト。
母親は麻薬取り引きの罪で禁固7年の実刑、服役中。
父親は顔も知らない。
保護者のいない三姉弟が暮らす水道もないアパートは、近所のヤク中のたまり場になっていて、目の前で注射を打っている。
長姉(17歳)13歳で大麻をやり、今はヘロインを使用、エイズの陽性。
次姉(14歳)児童クラブで勉強を教わるが、偶数が何か分からず、自分の生まれた年が何年か計算できない。
トト(10歳)児童クラブでヒップホップを習い、大会で2位になる。
次姉とトトは孤児院に入る。
その孤児院に赤ん坊を抱いた小さな女の子がいて、「何人兄弟?」と聞くと、「今は5人兄弟」と答える。
「今?」と尋ねると、「前は8人兄弟だった。お父さんが子供を売った」と言う。
誰に売ったのか、何のために買ったのか、その子たちは何をしているのか。
母親が仮釈放で刑務所から出でくる。
迎えに行ったトトと次姉に、帰りの汽車の中で母親は、両親も兄弟もみんな刑務所に入っていたとかなんとか、機嫌悪そうにぶつくさ言う。
家族のみんなが未来がない。
撮影されたのは2012年ごろ。
5年間でこの姉弟はどうなったか、今はどうしているのかと思うと気がふさぎました。
ネットで調べると、『トトとふたりの姉』は50以上の映画祭に招待され、監督はトトや次姉と一緒に参加することもあるそうで、ホッとしました。
https://cinemarche.net/documentary/totosisters/
ルーマニアはそんな状況なのか、それに比べて日本はいい国だと思ったのですが、考えてみるとそうは言えない。
貧困によって食べることができない子供たちに食事を提供する子供食堂が全国で増えています。
30年以上、子供たちに食事を作ってきた中本忠子さんの話だと、やって来る子供のほとんどは親が薬物依存だったり刑務所に入っており、子供の目の前で覚醒剤を使用する親もいるそうです。
https://www.youtube.com/watch?v=By5_GkYh7Us
トトの環境とさほど変わらない生活をしている子供たちが日本にも少なからずいるわけです。
ロバート・チャールズ・ウィルスン『時を架ける橋』はタイムトラベルもののSF小説。
未来から来た男が「この先20年くらい、かなり荒れた時代になるだろう」と言います。
『時を架ける橋』は1989年の作品ですから、2009年までは世界は荒れた状態が続くということで、ええっ、えらい悲観的だと私は思ったわけです。
たしかに、1989年にはベルリンの壁が崩壊、1991年のソ連崩壊と、米ソの対立はなくなったけど、1992年はボスニア・ヘルツェゴビナの内戦、1994年のルワンダでの大虐殺、2001年にアメリカで同時多発テロ、そしてアフガニスタン侵攻、2003年にはイラク戦争によりフセイン政権の崩壊というふうに、世界はたがが外れてしまったようです。
だけども、私のまわりでは同じような日常が続いていて、荒れた時代、荒れた社会であっても、それとは無関係に暮らしている。
そして、トトや姉たちはその世界からはじき出されているわけです。