三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

帚木蓬生『ギャンブル依存国家・日本』(1)

2015年11月08日 | 

ギャンブル依存症者の話を聞く機会があり、ほお~と思ったのですが、帚木蓬生『ギャンブル依存国家・日本』を読むと、ギャンブル依存症は依存症者個人の問題にとどまらず、ギャンブル依存の問題を放置している政府・行政、メディア、精神医学界などにも責任があることがわかります。

 1 ギャンブル依存症の現状
2014年、成人の依存症を調査している厚労省の研究班によると、ギャンブル依存の有病率は4.8%(男8.7%、女1.8%)で、日本には536万人のギャンブル依存症者がいる。
アメリカは1.6%、香港は1.8%、韓国は0.8%と、日本よりずっと少ない。
ちなみに、ネット依存は421万人、アルコール依存が109万人。

帚木氏の診療所を訪れたギャンブル依存症者100人(男92人、女8人)の報告。

ギャンブルの開始年齢 平均20.2歳
借金の開始年齢 平均27.8歳
精神科に相談にくる年齢 平均39.0歳
受診するまでの20年間につぎ込んだ金額 50万円~1億1000万円(平均1300万円)
ギャンブルの種類 パチンコ、スロット、パチンコ・スロットがらみが8割強

 2 依存症とは

ギャンブル障害は精神疾患であり、自分の意思ではやめたくてもやめられない。
脳内の報酬回路は、Aという行為をすれば、Bという利益が得られると学習して、利益に結びつく行為を強化していく。
人の脳内報酬回路は2つあり、一つは衝動的な報酬回路、もう一つが思慮的な報酬回路。
2つの回路はうまく補完し合って、人間の行為を調節している。
ところがドパミンが過剰になると、衝動的な報酬回路が優位になり、今すぐの利益と興奮を求めての行動に走り、そんなことをすれば大変な損失を蒙るという考えは吹き飛んでしまう。

ギャンブルによるハラハラドキドキの期待感や危機感で、神経伝達物質ドパミン優位の脳になると、簡単には元に戻らない。

アメリカでは依存症者について「一度ピクルスとなった脳は、二度とキュウリには戻らない」と言うそうで、帚木蓬生氏は「一度たくあんになった脳は、二度と大根に戻らない」と言い換えています。

アルコール依存症の離脱症状は1週間程度なのに、ギャンブルの離脱症状はひと月、ふた月にわたって続く。

はまり込むにつれて多少の金額を賭けるのでは興奮せず、次第に大金を賭けるようになったり、本命に賭けるのではおもしろくなくなり、穴狙いになる。

判断能力を失い、ウソと借金を重ね、家族を崩壊させ、犯罪へと走る。

ギャンブルによる犯罪事件は横領、窃盗、幼児の車内放置、そして殺人など。
帚木蓬生氏が列挙しているパチンコ・スロットがらみの殺人事件は2009年は25件、2010年は20件。

シベリアに抑留された軍医の回想記を帚木蓬生氏は引用しています。

将兵たちは手製で花札をつくり、日々のなけなしの食糧を賭け始めたのです。ソ連軍から支給される黒パンだったり、スープだったり、丸々1食分だったりしました。ある兵士は、続けて何食分も負け、とうとう餓死したというのです。

食糧をまきあげて死に至らしめるというのもすごい話で、相手もギャンブル依存だったんでしょう。
「ギャンブルやめますか? それとも人間やめますか?」とキャンペーンしてもいいくらいです。

 3 利権

なぜ日本ではギャンブル依存が多いのか、行政はどうしてギャンブル依存の対策に取り組もうとしないのでしょうか。

日本でのギャンブル禁止の最初の記述は『日本書紀』で、689年のこと。

その後もたびたび禁止令が出され、罰則も厳しくなる。
ところが、国家によるギャンブルの統制が敗戦後に一挙に崩れ、政府は自らが胴元となって公営ギャンブルを展開した。
敗戦の2か月半後に政府は宝くじを発行し、競馬が1946年、競輪が1947年、競艇が1951年に始まる。

日本には公営ギャンブルは競馬、競艇、競輪、オートレース、スポーツ振興くじ(トトなど)、宝くじの6種ある。

公営ギャンブルの総売り上げは約5兆3000億円。

国家自体がギャンブル依存に陥っているのです。


公営ギャンブルはさまざまな省の所轄下にあり(競馬は農水省、競艇は国交省、競輪とオートレースは経産省、宝くじは総務省、スポーツ振興くじは文科省が監督官庁)、官僚の天下りと横すべり先を含む権益を持つ。

公営ギャンブルが儲かってばかりかというと、そうではない。

軒並み赤字なので、客離れをとめるためにギャンブル性を高めて客を集めようとして、逆に客足を遠のかせている。
赤字だからといって、廃止するにも巨額の費用がかかる。
荒尾競馬場の場合、失職する調教師などへの補償金、競馬場の解体費用、委託先との契約解除金などで、精算には30億円から40億円かかると見積もられている。
なのに、特殊法人の給料は国家公務員に比べて高い傾向があり、JRAの給与水準は国家公務員と比べると4割増。

パチンコ店の監督官庁は警察庁で、パチンコ業界の関連組織は警察OBの天下り先となっている。

警察は天下りを含めた自分たちの権益を確保したいので、パチンコ店が出玉を換金しないからという理由で、パチンコ・スロットをギャンブルとみなさない。

パチンコ店の年商は19兆円から20兆円だから、マカオの年間売り上げ約4兆7000億円の4~5倍。

20兆円はトヨタの年商に匹敵し、全国の百貨店の年商は6兆2000億円。

パチンコ・チェーンストア協会の政治分野アドバイザーを務めている国会議員が43名いる。(2014年10月現在)

パチンコ業界の関連市場は、液晶市場、セキュリティ市場、空気清浄器市場、コンピュータシステム関連市場など、そして広告業界、テレビや新聞といったマスコミもパチンコ店の広告収入をあてにする。
こういう構造になっているから、何ら対策を講じないというわけです。

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