三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

野田正彰『うつに非ず』

2015年05月02日 | 

野田正彰『うつに非ず』を読んだあと、野田正彰氏の講演を聴く機会がありました。
講演の中から、自死、ウツ病、抗ウツ剤についての話をまとめてみます。

「自殺はウツ病です」というキャンペーンがされ、ウツ病の人は医療にかからず死んでいくんだと思われているが、実態は全然違う。
自死者の85%は精神科に通っており、しかも大半の人は薬を飲みながら亡くなっている。

自死者の数は徐々に減っている。
それは不況が落ちついたということと、消費者金融対策がようやく行われるようになったからだと思う。
消費者金融、つまりサラ金を育てたのは大蔵省で、局長は退官したらサラ金の役員に天下りしていた。
高金利のせいなのに、多重債務に陥る人が悪いんだとされた。

日本ではお金を借りた時に生命保険をかけさせる。
そして親族への連帯保証制度があり、保証を公的に行うよう制度化すべきなのに、明治時代の民法のまま維持している。
経済的に行き詰まった時に、せめて家族に家と土地を残したい、親族に迷惑をかけたくないと自ら死んでしまう。

ところが、借金で行き詰まったり、身体が悪くなったり、自殺の原因は違っていて、さまざまな理由があるのに、医師はすべてウツ病のせいにしてしまう。
これにマスコミが乗って、新聞やテレビでは「ウツ病は心の風邪だから、薬を飲みましょう」と薬の宣伝をしている。

ウツ病と抑ウツ状態は全然違う。
さまざまな形でその人への何らかの負荷がかけられて、本人がそれに苦しんでなる状態が抑ウツ状態で、「何でこんなことになったんだ」「何でこんなことをするんだ」と焦燥感を持つ。

本来のウツ病は30歳までに起こり、個人の体質的な面がある。
理由もなく、負荷もなく、感情が湧いてこない、意欲も湧いてこない状態で、楽しみを楽しめない、悲しみを悲しめない。

ウツ病は時代によって増えるものではないし、もともとそんな多い病気ではなかったのを、ご飯食べなくなった、寝れなくなった、だからウツ病だということにして薬を出す。

ウツ病と抑ウツ状態をごちゃまぜにしてウツ病にしたのは、90年代からの終わりで、その動きはアメリカで作られた。
その背景にあるのはウツ病の薬の開発ということだった。

抗ウツ剤なるものは80年代に精神剤安定剤の代替物として開発され、それを抗ウツ剤として製薬会社が売り出した。
どうしてウツ病になるか、セロトニンとウツ病が関係があるとされているが、実はどうなのかわかっていない。

2010年のウツ病患者は2000年に比べて3倍を超えている。
病気はそんなに急激に増えるものではなく、病気が2倍とか3倍になることは強力な伝染病でないかぎりあり得ない。
そんなにウツ病が増えたのは、診断基準がいい加減だということでしか説明がつかない。

ウツ病が3倍になったのに、2000年代の抗ウツ剤の売り上げは100億円ちょっとなのに、2010年には1100億円を超え、10倍になっている。

いかに今の医療が腐っているかという一例として、2009年に鑑定したケースを紹介する。
30代の奥さんが近くの精神科に行ったら、「あなたはウツ病の可能性があるから、東大病院に行きなさい」と言われ、東大病院では「ウツ病だから入院しましょう」と診断された。
そして夫に「里心がついてはいけないので、二週間は面会に来ないで下さい」と医者は言った。
二週間後に行ったら、奥さんの顔はげっそりとして、よだれを流し、オムツを当てられてベットに横たわっているという変わり果てた姿だった。
夫は大変なことになったと思ったけど、何も言えずに帰った。
一週間後にお金を払いに行くと、30何万円で、3分の1だから、東大病院は100万円の医療費を取っていたことになる。
弁護士に相談して、カルテや健康保険の記録を取ると、奥さんの病名はウツ病の他にエイズ、統合失調症、梅毒の疑い、テンカンの疑い、神経症、肝炎など22の病名が書いてあった。
そもそもウツ病と統合失調症と神経症とテンカンが併発することは絶対にない。
入院した翌日から抗ウツ剤と精神安定剤の点滴が行われ、同時に電気ショックが行われている。
電気ショックを1回すると病院は4万円のお金が入る。
電気ショックはコンピュータに強い電圧をかけて破壊するようなものだから、健忘症になり、自分の名前もはっきりしなくなることがある。
それで悩みを忘れさせるという効果があるというわけだが、とんでもないことで、最悪の犯罪だとしか言いようがない。
東大病院は請求書が誤って記載していたという言い訳をし、一部訂正、たとえば精神療法をしてないのにしているというので、お金を返してきた。
それを保険診療機関は認めた。
通常、こういう不正があると保険医を取り消されるが、東大病院を取り消すと困るから、このケースについてだけお金を返すことになった。
大学病院でも今やこの程度です。

以上です。
野田正彰氏の話を聞き、ウツ病で入院したら薬漬けにされ、よだれを垂らしてぼうーっとするようになったとか、処方薬の依存症になった人が多いということを思い出しました。
かといって、薬を飲まないというのも大丈夫かなと思います。
それと、「自殺」を「自死」と言うようになりましたが、『ウツの非ず』ではそのことも批判しています。
というのが、自殺の原因の多くは経済的なことや、パワハラ、過労死など労働条件に問題があるのに、「自死」という言葉は個人の問題(ウツ病)に歪曲することになる。
自殺するまで追い詰める環境を変えていくのが先決だ、という野田正彰氏の意見はもっともだと思います。

人の気分は直線ではない。嫌なことがあれば気分が沈む。むしろ、嫌なことがあっても気分が沈まない人は活き活きと生きていないと言えよう。そして嫌なことがあろうとなかろうと、その人の基本的な気分はゆっくり動いている。以前は嫌なことがあってもそれほど気にならなかったのに、ある時は気分が沈むこともある。
気分がゆっくりと揺れていることを認め、そのなかで苦しみや不安を直視することは、自分が何に向かって生きているのか、何を幸せとして生きているのかを考える契機となる。掛けられた負荷を通して、人は自分の人生を豊かにしていくのである。(野田正彰『うつに非ず』
コメント (2)
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