三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

「優生保護法」と強制不妊手術

2015年02月22日 | 

某氏に、2013年8月に亡くなった佐々木千津子さんの追悼文集『ほぉじゃのぉて』をいただきました。
佐々木千津子さんは1948年生まれ、生後1週間で高熱を出し、脳性マヒになった。
17、8歳のころ、姉が見合いをしたが、「障害者が妹にいるなら、遺伝が怖い」と断られる。
施設に入るしかないと思ったが、施設の職員に「生理の始末が自分でできんかったら入れん」と言われ、母親が「痛くもかゆくもない手術方法がある」と聞いてきたので、20歳の時、卵巣にコバルト線照射を1週間受ける。
一日でも休むと効果がないと言われた。
その後、倦怠感などの後遺症に苦しむ。



としみつけいこ「日本における障害を理由とした強制不妊手術の実態」という文章が『ほぉじゃのぉて』にあります。
「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」ことを目的とした「優生保護法」のもとで、
(1)本人の同意を要しない不妊手術
(2)形だけは「本人の同意に基づく」とされたものの、実質的には強制的に行われた不妊手術
(3)優生保護法の範囲さえ逸脱した不妊手術
という形での強制不妊手術が行われた。

(1)について
遺伝性の精神病や遺伝性疾患を持つ人に対して、医師が申請し、優生保護審査会が認めれば、本人の同意がなくとも強制的に不妊手術を行うことが認められていた。
また、遺伝性でない精神病や知的障害の人に対しても、保護義務者の同意と審査会の決定によって不妊手術を行うことが合法化されていた。
しかも、厚生省の通達には、やむを得ない場合、身体を拘束したり、麻酔薬を用いたり、だましたりしてもよいとまで記されていた。
本人の同意に基づかない不妊手術の件数は、1949年から1996年の間で、およそ16500件に上り、約7割が女性だった。

(2)について
本人・配偶者や血縁者が遺伝性疾患や精神病、知的障害を持つ場合、あるいは本人・配偶者がハンセン病に罹っている場合には、本人と配偶者の同意を得て不妊手術を行うことができると規定していた。
実際は本人の自由意思に基づいていたとは言いがたいものだった。
ハンセン病の場合、強制隔離施設の中で、結婚の条件として強制不妊手術が行われていた。

(3)について
優生保護法の範囲さえ逸脱した不妊手術があり、佐々木千津子さんの場合がこれにあたる。
優生保護法では、不妊手術として認められているのはパイプカットや卵管結索等のみで、子宮や卵巣を摘出したり、放射線照射によって機能を廃絶させることは認めていない。
それにもかかわらず、「月経の介助が面倒」「月経時には精神が不安定になる」等の理由によって、子宮摘出や生殖器への放射線照射が行われた。
施設への入所の条件として強いられたり、入所中に施設側から勧められて不妊手術が行われた例もある。
カルテには「子宮筋腫」「卵巣膿腫」等の病名がつけられ、医療行為であるかのように偽って実施されたため、どれほどの障害者が不妊手術を受けさせられたのか、実態さえ明らかになっていない。
今でも、知的障害の女性に対して、妊娠を防ぐ等の理由で、本人の意思によらない子宮摘出手術が行われたり、障害者の交際や結婚支援の前提として不妊手術が推奨されたり、要請されたりする例が報告されている。

「優生保護法」は1996年に障害者差別に関連する条文を削除して「母体保護法」に改定された。
強制不妊手術について国は「適正な手続きの下に行われていたもので、合法だった。したがって、補償することは考えていない」として、実態調査さえ行っていない。
1997年、スウェーデンなど北欧でも強制不妊手術が行われていたことが問題となり、スウェーデン政府は調査委員会を設置、公的補償を開始している。

『ほぉじゃのぉて』には強制不妊手術を受けた人の手記が載っています。
飯塚淳子さん(仮名)
中学3年のときに知的障害者のための施設に入所させられ、1年で施設を出ると職親の家に連れていかれた。
職親とは、知的障害者を預かり、指導訓練をする人。
職親の家に2年いる間、給料をもらうことはなく、与えられたのは花柄のワンピース1枚と、ビニールの赤い靴1足だけ。
職親の奥さんに連れられて病院へ行き、優生手術を受ける。
子供を産めなくされたことは、その時はわからなかった。

村中拓美さん(仮名)
入所していた施設職員が、重複重度障害者のトイレ介助をするたびに、「ホントに子どもも産み育てられないのに、こんなもんだけ月に一度きちんとあったって仕方ないんだよ。手術を受けてこんなもん取ってしまえばいいのに……」と毎回言っていた。
それを聞かされていたので、自ら母に懇願し、医者に頼み、周りの反対を聞かず、子宮摘出手術を受けた。
自己責任だと思っていたが、「そんなふうに思いこまされていたんだから、自分を責めなくていい」という言葉に救われた思いがした。

「優生保護法」は妊娠中絶できるための法律だと思っていましたが、強制不妊手術がこうした形で行われていたとは知りませんでしたし、職親という制度も初めて耳にしました

コメント (4)
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