三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

高野秀行『謎の独立国家ソマリランド』(2)

2015年02月17日 | 戦争

ソマリランドは国連や外国の力を借りず、自分たちだけで内戦を終結させ、平和を維持しています。
どのようにして内戦を終結したのか、高野秀行『謎の独立国家ソマリランド』の説明を私なりに要約します。

バーレ政権の時代、マイノリティの氏族は政府軍につき、マジョリティであるイサック氏族のゲリラと闘い、首都ハルゲイサ市民の弾圧と虐殺に協力した。
バーレ政権が崩壊し、イサック氏族が政府側だったマイノリティの氏族に復讐すると予想されたが、イサック氏族の長老たちはそれを選択しなかった。
独立宣言後、イサック氏族の間で主導権争いが始まり、内戦になる。
1993年、事態を憂えた氏族の長老たちが集まり、数か月にわたって会合を続け、戦闘が中止した。
が、またもやイサック氏族の二つの分家が合意を不服とし、武装解除を拒否して再度内戦が始まった。
1995年に、また氏族の長老が会合を開き、和平と武装解除が行われた。

ソマリ人の伝統的な掟=契約を「ヘール」という。
たとえば「殺してはいけない者の掟」があり、女性、子供、老人、賓客、傷病者、宗教的指導者、共同体の指導者、和平の使節、捕虜に危害を与えることを禁止している。
ヘールに従ってヘサーブ(精算)が行われる。
一人殺された場合(事故死も)、男ならラクダ百頭、女ならラクダ50頭、殺した側の氏族が被害者側の氏族に支払う。(今は現金で払うことが多い)
この賠償金は氏族の構成員が人数割りで出す。
内戦では何千人も殺されているので、ディヤ(賠償金)の支払いはなかった。
1回目の和平交渉のときは、娘20人ずつを交換するという方法をとった。
2回目のときは娘の交換も行われなかった。
各氏族がとりあえず停戦を行い、国作りの方法をあらためて検討し合うことで合意した。

内戦の終結、武装解除、複数政党制への移行が可能になったのは、2代目大統領エガルの力が大きい。
民兵は武器を渡して政府軍に編入され、カネを得た。
もっとも、重火器は政府に差し出されたが、自動小銃の相当数は一般家庭に保存されている。

高野秀行氏はソマリランドを国際社会が認める必要性を訴えます。
自分たちの力で平和を勝ち取り、維持している国を認めることが、紛争よりも平和のほうがいいことを伝えることになるからです。
ソマリランドの安全度は、国土の一部でテロや戦闘があるタイ
やミャンマーよりずっと高いそうです。

アフリカの発展途上国で、産業がろくにない国がやっていけるのは、外国や国連、NGOからの援助によってである。
無政府状態の首都モガディショでは国連やNGOなどから援助物資が送られてくる。
援助物資の横流しがなくても、トラックのチャーター代、ガソリン代、荷物の積み卸しの人件費、食糧保管場所の場所代、保管の警備費、食糧分配場所の場所代、ブローカーへの費用などのお金が地元に落ちる。
和平会議や慰問のために外国の首脳が訪問すれば、警備のために百人単位の兵士が動員され、その警備代は外国か国際機関が出すことになる。

トラブルを起こせば起こすだけ、カネが外から送られてくる。誰も真剣にトラブルを止めようと思うはずがない。

内戦や紛争がなかなか終わらないのはどうしてかと思ってましたが、こうしたことも原因の一つなんですね。

「<シリア>避難高校生が「ジハードに」…数千人が行方不明も」という記事がありました。
トルコ南部のシリア人避難所の高校で、男子高校生の9割近い280人が「ジハードに行く」と、個別にシリアに戻ってイスラム国などの武装組織に入り、死亡もしくは行方不明になっており、トルコ全体では数千人規模のシリア人高校生が行方不明になっている可能性があるそうです。

子どもたちは日ごろから「なぜ欧米は多数の市民を殺すアサド政権を攻撃せず、アサド政権より市民に信頼のあるISを攻撃するのか」などと、怒りを口にしている。ISはその残虐性で知られるが、彼らが信じるシャリア(イスラム法)を守り、敵対しない市民には危害を加えないため、理想化する若者も少なくない。(略)
避難所で高校教諭を務めていた男性(43)は「若者世代はシリアで11年に始まった反体制派運動に対するアサド政権の弾圧や市民殺害に強い怒りを抱いている。米軍主導の有志国連合による空爆がアサド政権ではなくISにのみ向けられ、失望したり反発したりしている」と話す。(毎日新聞2月5日)


ソマリアがそうだったように、ISを国連や欧米が武力で制圧し、欧米の言いなりになる適当な人を大統領につかせ、民主主義を強制しても、反発され、混乱が増すだけでしょう。

戦争を起こしたり、治安が乱れている場所にせっせとカネを落とす行為は、暴力と無秩序を促進する方向にしか進まない。

高野秀行さんはこのように書いていますが、ほんとその通りです。

ソマリランドでは氏族間の紛争に当事者とは違う氏族が仲介の労を取っています。
その土地に合った紛争解決法があるわけで、アメリカと一緒に戦争することが日本の役割ではなく、第三者として調停することこそが積極的平和主義だと私は思います。

コメント
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