三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

頼尊恒信「僕はなぜCILに就職し、今もなおCILで働き続けるのか」

2013年01月14日 | 日記

某氏からいただいた「名古屋教区教化センター センタージャーナル」NO.82に、頼尊恒信「僕はなぜCILに就職し、今もなおCILで働き続けるのか」という講演要旨が載っていました。(CILは障害者自立生活センターの略称)

原発問題の学習会で「障害児が生まれるから原発はいけない」という空気に満たされた時に、「障害児が生まれるから原発がいけないのではない」という問題提起がなされ、それで頼尊恒信氏の講演が行われることになったそうです。
なるほど、「障害児が生まれるから原発がいけないのではない」ということは、障害者の存在の否定が前提ですし、障害児が生まれなかったら原発はOKということにもなります。
以下、要旨のさらに要旨です。

「原発反対運動などで、「障害児が生まれるから原発はいけない」と、障害者が引き合いに出されることがあります。しかし、本当に「障害児が生まれるから原発はいけない」のでしょうか」

 「障害」ってなんだろう
頼尊恒信氏の脳の中には直径3ミリほどの壊死している部分がある〈疾患・変調〉。
それによって手足が変形し〈機能・形態障害〉、歩くのが困難な状態である〈能力障害〉。
そのため、エレベーターが設置されていない施設を利用できない〈社会的不利〉。
変形に対しては医療で手術し、歩けないことに対してはリハビリテーション、社会的不利に対しては福祉において恩恵を与えていくというのが、WHOが出した「障害」の定義である。
これは欧米の障害者運動の中で医学モデルと批判される。
その批判の根底にある考え方を社会モデルという。
歩くのが困難であっても、エレベーターを設置したら二階に上がれる。
エレベーターを設置していない施設側、もっと言うと、社会が障害を作っているという考え方が社会モデルである。
アメリカにはADA法という法律があるので、車イスの人に対して鉄道会社が乗車拒否したら違法である。
韓国も中国もイギリスも同様の法律があるが、日本では法律がないので、違法ではない。

 「中村久子展」から見えてくるもの
東本願寺の中村久子展のチラシに、中村久子さんの生涯を「苦難の境遇と障がいの身の事実を真正面から引き受けて、力強く人生を生き抜かれました」と書かれてある。
突発性脱疽にかかり両手両足を切断した中村久子さんの努力を絶賛している。
しかしそれは、障害という問題を個人の課題としてのみ捉え、個人の力量によって障害を克服しないといけない問題としている医学モデルに等しい。
社会モデルの障害観では、現在の社会の仕組みが身体的〈機能・形態障害〉を持つ人々について全くあるいはほとんど考慮していないために、社会の重要な活動からその人々が排除されていると定義している。
中村久子さんに対する捉え方は、個人の問題として扱い、中村久子さんを「畜生」と言った社会の問題には触れていない。
「障害は頑張って克服しなければならない」「障害もまた乗り越えるべき課題だ」と感じられる中村久子展の展示手法は、健常者のみの視点だし、差別している社会を問うことを放棄している。

 電力問題と障害者
社会モデルでは、障害は社会が生み出したものであり、障害者は社会によって抑圧された人々であると考える。
社会と地方の関係も社会モデルで考えると明確になる。
原発やダムはお金のあるところにはできない。
また、そこで働く労働者も複雑な社会的背景を持つ人が多い。
原発がゼロになったらおしまいというわけにはいかない。
なぜならそこに差別・抑圧・排除の構造の中で労働する人々が存在し、村ごと移転しなければならない事実があり、そういったことを強いる社会があるからである。
このようなことを理解せずに「反原発」と言っていないか。
原発以外なら何でもいいという考え方自体が、現在の抑圧の社会を作り出している。

 社会のリトマス紙としての障害者
障害者とは社会の最底辺で生活する人々の象徴である。
そして、障害者は社会状況のリトマス紙なのである。
原発反対運動に障害者が引き合いに出されるのも、障害者を社会が忌み嫌っているからだと言える。
障害者観が社会モデルに変わってくるということは、あらゆる人々が生きやすい状態になることである。

以上です。
最後に注として、「本抄録では、「障害者」という言葉を社会的障壁によって不利益をもたらされている人と理解して、「がい」ではなく「害」という文字を用いています」とあります。
これまた、なるほどなと感心しました。

健常者には、中村久子さん、星野富弘さん、乙武洋匡さんといった人を、あるべき障害者像と見なしているように感じます。
こうあらねば、というふうに。

これは一種の障害者差別を生み出しかねないと思います。

コメント (8)
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