都築響一『夜露死苦現代詩』はラップ、相田みつを、玉置宏の曲紹介から、餓死した女性の日記、知的障害者のクイズ、認知症者のひとりごと、そしてエロサイトの惹句、湯飲みや暖簾の人生訓・健康訓などなどを取り上げた本で、オススメ。
その中に死刑囚の俳句もあって、北山河・北さとり『処刑前夜 死刑囚のうたえる』と『異空間の俳句たち 死刑囚いのちの三行詩』から死刑囚の俳句が紹介されている。
早速、『異空間の俳句たち』を図書館で借りた。
いくつかを紹介します。
風縷(27歳)(年齢は被処刑時のもの)
冬夕焼け
愛したくなる
誰も彼も
武雄(61歳)(西武雄氏である)
われのごとく
愚かよかなし
冬の蝿
天民(推定20代前半)
春雷や
冷たき母で
あればよし
解説にこうある。
「死刑執行の前日。かつては本人の希望や支援者たち(この場合は外部からの俳句指導者たち)との「別れの宴」が催された。
この句は作者がその最後の席で、母を前にして、句の指導者である故北山河氏に見せたもの。この「冷たき母であればより」の意味が分かってくれるでしょうね、と天民は問い続けたという」
天民の手記の最後。
「犯行当時の、または捕らえられた当初の私は、自分が悪事を犯すようになったのは、みんな周囲や社会が悪いのだ、というぐらいに考えていました。今になって、それはみんな自分のひがんだ根性、心の向けどころが間違っていたから起こった罪の結果であったことを教えられています。出発点を間違った者の悲しみを味わっております」
白子(26歳)
仮の姉と最後の面会を終えて
姉と手を
握りし汗を
もち帰る
祥月(31歳)
秋天に
母を殺せし
手を透かす
「かつては母親をはじめ、肉親を殺害したものには「尊属殺人」として死刑が宣告されていた」
桜ほろほろ
死んでしまえと
降りかかる
「獄内の罰則で入れられた懲罰房では、終日母の位牌を抱いたままうずくまっていたという」
足袋つづる
この手に母を
殺したる
絶句
梅雨晴れの
光を背負い
ふりむかず
初久(36歳)
返り花
われを死囚と
子は知らず
牛歩(54歳)
過去と未来
いづれが長し
花菖蒲
「「殺人者がたむろする世界(獄中)に暮らしてみて、そこと一般社会との壁が紙より薄いのを感じて驚いた」と作者は記している。「被害者の身内の人と面会したとき、そしてわが身内の者たちと次々に会ったとき、これが胸をえぐられるというものかと痛切に身にしみた」とも」
罪
何をもって償ふ
穴まどひ
「「被害者の遺族の人たちとわが身内たちの、悲痛と慨嘆の渦中にあって、精神に異常を来すこともなく、苦しさの中での身の処し方を覚え、馴染んでいったところに私は私の悪人たるところを見た」と作者は書く」
宏昌(28歳)
生まれざりしならば
と思う
夜の長さ