『アラビアン・ナイト』全18巻(東洋文庫)を読破する。
『千夜一夜物語』というと、「アラジンと魔法のランプ」とか「アリババと40人の盗賊」といった有名な話が思い浮かぶが、これらはアラビア語の定本の中には入っていないし、「空飛ぶ絨毯」となるとアラビア語の原本すら見つかっていないそうだ。
それに、「シンドバッドの冒険」みたいな奇想天外な話やエロチックな話ばかりかと思ったら、イスラム教と結びついた教訓的な話が多いのには驚いた。
イスラム教の教義が長々と説かれたり、篤信者たちの言行についてのお説教が続いたり、異教徒をばったばったとなぎ倒す聖戦の話はワンパターンだし、正直退屈になることもある。
中にはいくら何でもと思う話もあって、たとえば、ムスリムに誘拐されて奴隷として売られたキリスト教国の王女を父王は手を尽くして連れもどすのだが、ムスリムに改宗した王女は夫と逃げ出し、追ってくる兄弟を殺してしまうというような無茶苦茶な話もある。
二言目には「アラー」という言葉が出てくるし、『アラビアンナイト』は日本でいうと節談説教みたいなものなのだろうか。
その他、思ったこと。
・酒を飲むこと
イスラム教では飲酒を一切禁じているのかと思ったら、酒を飲む場面がよく出てくる。
町には酒屋があるし、カリフだって飲んでいる。
・一目惚れの話が多いこと
イスラム教徒の女性はヴェールで顔を隠しているはずなのに、どうして一目惚れできるのだろうか。
・イトコの夫婦が多いこと
注によると、アラブ社会では伯叔父の娘と結婚するのは当然のこととされてきたそうだ。
・障害者差別、女性差別が目につくこと
これはそんなもんではあるが、たとえば「ひとりのせむしと出会いました。その格好と申しましたら、悲しみに沈んでいる者も笑い出し、嘆いているものもその愁いをやめるほどのものでした」で始まる「せむしの物語」がそう。
女性について言えば、「女は頭脳も信仰も足りないのです」、「男というものは生まれつき女に欲情を抱くものでして、女こそ男衆の求めを拒むべきものなのです」などなど。
高校の時にバートン版『千夜一夜物語』の1巻だけ読んだ。
『千夜一夜物語』の発端は、シャハリヤール王兄弟は妻が黒人奴隷と浮気しているのを知って女性不信に陥る。
どうして黒人奴隷と浮気をするのか、リチャード・バートンの注はこうなっている。
「淫蕩な女たちが黒人を好むのは、彼らの陰茎が大きいからである。私はかつてソマリランドで、ある黒人のものを測ったが、平時に、ほぼ六インチあった。これは黒人種やアフリカ産動物、たとえば、馬の一特徴である。これに対して、純アラブ族―人も、動物も―はヨーロッパの平均水準にも達しない。
ついでながら、エジプト人がアラブ人種でなく、いくぶん肌の色の白い黒人であることは、右の事実がもっともよく証拠立てている。しかも、この巨陽は勃起中、もとの大きさに比例して、太くなるわけではない。したがって〈性行為〉は非常に長い時間がかかり、大いに女の愉悦を高める」
高校生の私はなるほどそういうものかと思ったけど、今読むとちょっとなあという解説でした。