水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

シナリオ 夏の風景(第九話) ナス

2009年12月07日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      夏の風景
      
(第九話)ナス

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]

   N      ・・湧水正也
   その他   ・・大工の留吉

1.離れ 昼
   タイトルバック
   恭之介の部屋で昼寝する正也。蝉しぐれ。屋外は猛暑。
  N   「僕はじいちゃんの部屋で昼寝を余儀なくされている。その訳は、家の母屋が改造中なのだ。
今でいうリフォームってやつで、請
       負った同じ町内に住む大工の留吉さんが、四六時中、出
入りをしている(◎に続けて読む)」

2.(フラッシュ) 改造中の子供部屋 昼
    金槌で釘を打つ留吉。工事中の部屋内。かなり散らかった子供部屋。
  N   「(◎)離れで寝ている訳は、工事の騒音で安眠できないからだ(◇に続けて読む)」

3.(フラッシュ)
 母屋の各部屋 昼
   湧水家の台所、居間、奥の間、浴室、洗面所…などの光景。どの部屋でも聞こえる釘を打つ音。
  N   「(◇)僕の家は昔に建てられた平屋家屋だから、まず母屋の、どの場所に寝ても、騒音は防ぎよう
がないのだ(△に続けて読
       む)」 

4.もとの離れ 昼
   恭之介の部屋で昼寝する正也。蝉しぐれ。
  N   「(△)そんなことで、別棟の離れで昼寝となった訳だが、じいちゃんが扇風機やクーラーを使わな
いものだから、大層、迷惑して
       いた」
   テーマ音楽
   タイトル「夏の風景(第九話) ナス」
   キャスト、スタッフなど

5.台所の裏口 朝
   裏口の戸を開け、作業着姿の留吉が元気に入って来る。スリッパに履き換え、台所へ上がる留吉。
  留吉  「今日も暑くなりそうですなぁ、奥さん」
  未知子「…ええ、倒れるくらい暑いから困るわ(笑って)」  
  留吉  「ほんとに…。我々、職人泣かせですよ、この暑さは…」
   台所を通り過ぎ、子供部屋に向かう留吉。

6.改造中の子供部屋 朝
   子供部屋へ入る留吉。直ぐに鉋(かんな)を手にして、横木を削り始める。ポットのお茶と湯呑み、茶菓子が乗った盆を運ぶ未知子。
   未知子の尻について入る正也。
  未知子「ここへお茶、置いときますから…」
  留吉  「いつも、すいませんなぁ…(削りながら)」
  未知子「あと、どのくらいかかりますの?」
  留吉  「そうですなぁ…。まあ、秋小口には仕上げるつもりでおりますが…(手を止め)」
  未知子「そうですか…。なにぶん、よろしく…(頭を下げ)」
   台所へ去る道子。そのまま留吉の作業を見遣る正也。正也を見遣る留吉。
  留吉  「正ちゃん、ほうれ…、この木屑をやろう。何か作りな(正也の手に渡し)」
  正也  「どうも、ありがとう…(留吉から受け取って)」
   渡された木屑を大事そうに持ち、部屋を走り去る正也。

7.台所 朝
   畑から帰ってきた恭之介が未知子と話している。台所へ入る正也。
  恭之介「未知子さん、今年もほら、こんなに成績がいい…(汗をタオルで拭きながら)」
   籠に入った収穫したてのトマト、ナス、キュウリなどを自慢して道子に見せる恭之介。籠の中を見遣
る正也。
  未知子「お父さま、助かりますわ。最近はお野菜も結構しますから…(少し、持ち上げて)」
   正也を見て、笑顔から真顔に戻る未知子。
  未知子「正也、勉強しなきゃ駄目でしょ(やや強く)」
  恭之介「そうだぞ正也。こういうふうに、いい成績をな、ワハハ…(賑やかに笑って)」
   収穫した紫色に光るナスを片手にして、示す恭之介。ふと、何か思い出したように、離れへ向かう
恭之介。
  恭之介「それにしても、あの虫除けは、よく効くなあ。全然、刺されなかった…」
   恭之介の頭とナスを交互に見る正也。
  N   「じいちゃんの頭とナスの光沢がよく似ている…、と僕は束の間、思った。台所には、じいちゃん
の頭ナスが、たくさんあり、僕を
       見ていた」
   F.O
   タイトル「夏の風景(第九話) ナス 終」

※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「短編小説 夏の風景☆第九話」 をお読み下さい。


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残月剣 -秘抄- 《剣聖②》第五回

2009年12月07日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《剣聖②》第五回
 何が面白いのかがよく分からず、左馬介は、ふたたび訊ねた。
「それは、どういうことです?」
「なにね、権十から私も聞いたんですよ」
「えっ? 葛西の百姓の権十ですか?」
「ええ、そうです」
 なんのことはない。鴨下も葛西の権十から聞いたという。よく考れば、道場から一歩も出ていない鴨下が、そんな詳細に、蟹谷の事情について知っている訳がないのだ。というか、ほとんど知ることは出来ない筈であった。だから、権十から聞いたとなれば理屈も
合うし、真実味も随分と増す。
「それで、どうだと云うんです?」
 真実味が増す分、余計に詳しく知りたくなる。幻妙斎は、恐らく蟹谷の前へ忽然と現れたのであろう。そこ迄は左馬介にも想像は出来る。問題は、二人の間にどのような遣り取りがあったのか…
である。
「なにね。権十が云うには、千鳥屋へ奴が行ったときのことらしいです。千鳥屋の料理膳に供する材料を、いつものように調理場で花板へ渡し、その帰り道…。と、云いましても、暖簾を潜って外道へ出、数歩も行かないところで、バッタリと蟹谷さんに出会ったと、こう云うんですよ」


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