水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

シナリオ 夏の風景(第六話) 肩叩き

2009年12月04日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      夏の風景
      
(第六話)肩叩き

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]

   N      ・・湧水正也
   その他   ・・猫のタマ、犬のポチ

.庭 夕方
   タイトルバック
   庭に打ち水をしている正也。縁台に座って肩を摩(さす)る恭之介。縁側の床板
の上で心地よく寝ているタマ。その横で二人を見つ

   るポチ。ひと息、入れる正也。
  N   「じいちゃんが珍しく肩を摩っている。じっと見ていると、今度は首を右や左に振り始
めた。縁台に座るじいちゃんと庭の風情が、
       実によくマッチしていて、どこか、哀愁を感
じさせる」
   西山へ帰っていく鴉の鳴き声。オレンジと朱色に染まった空。白色に近い煌めきの光線を放ち、西山へ近づく夕陽。
   テーマ音楽
   タイトル「夏の風景(第六話) 肩叩き」
   キャスト、スタッフなど

2.庭 夕方
   バケツを片づけ、恭之介に近づく正也。
  正也  「じいちゃん、肩を叩いてやろうか?」
  恭之介「ん? ああ…正也か。ひとつ頼むとするかな。ハハハ…わしも歳だな(少し気弱に云
い、小笑いして)」
  N   「気丈なじいちゃんの声が、幾らか小さかった」
   恭之介の後ろに回り、肩を叩き始める正也。
  恭之介「ん…よく効く…効く(気持よさそう)」
   暫(しばら)く叩く正也。
  恭之介「すまんが今度は軽く揉んでくれ(優しい声で)」
   素直に、叩きから揉みへと動作を移行する正也。
  恭之介「ああ…、うぅ…。お前、上手いなぁ…」
  正也  「へへっ…(照れて、可愛く)」
   揉み続ける正也。心地よさそうな表情の恭之介。
  N   「僕の下心を既に見抜いているなら、じいちゃんは大物に違いない。案の定、ひと通り
終えた頃、じいちゃんの方から仕掛けてき
       た。これには参った」
  恭之介「え~正也、何か欲しい物でもあるのか?」
   ギクッ! として、動作を止める正也。
  正也  「うん、まあ…(可愛く、暈し口調で)」
  恭之介「男らしくはっきり云え。買ってやるから…」
  N   「僕は遂に本心を露(あらわ)にして、玩具が欲しいと云った」
  恭之介「では、明日にでも一緒に店へ行ってみるか…」
  正也  「ほんと?(可愛く)」
  恭之介「武士に二言はない!(厳しく)」
   廊下のガラス戸を開け、呼ぶ未知子。
  未知子「夕飯ですよ~、お父さま。正也も早く手を洗いなさい」
   すぐに窓を閉め、引っ込む未知子。
  恭之介「さあ飯だ、飯だ」
   縁台を勢いよく立つ恭之介。恭之介の頭に止まる一匹の蚊。
  恭之介「コイツ!」
   自分の頭をピシャリと叩く恭之介。スゥ~っと飛び去る蚊。
  恭之介「殺虫剤を撒かないと、このザマだ、ハハハ…(声高に笑い)」
   山へ沈む夕陽と、夕陽を受けて輝く恭之介の頭。
  N   「僕は光る蛸の頭をじっと見ていた。夕陽とじいちゃんの頭が、輝いて眩(まぶ)しかっ
た」
   F.O
   タイトル「夏の風景(第六話) 肩叩き 終」

※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「短編小説 夏の風景☆第六話」 をお読み下さい。


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残月剣 -秘抄- 《剣聖②》第二回

2009年12月04日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《剣聖②》第二回
「随分と、いろいろ入ってますねえ…」
 鴨下が素直に心情を吐露する。左馬介にもその訳は分からないから、誤魔化して「ええ…」とだけ答えた。一馬にもそこ迄は訊いていない。後に分かったことだが、この納戸に収納されている衣類や調度品の数々は、堀江家伝来の品だそうで、堀江家は由緒正しい家柄のようであった。なんでも、堀江妙兼(幻妙斎)で十数代続いていると一馬は云った。左馬介には、そのようなことはどうでもよったが、堀江幻妙斎という人物の人となりについて、もう少し知
い…とは思った。
 納戸のことは兎も角として、幻妙斎のことを一馬から訊きだすことは出来そうにない。自分だけではなく全ての者がそうなのだから、それはそれで致し方ないのだろう。今迄の自分が恵まれていて、幻妙斎に度々、あえたのだ。今日直ぐにでも会って指南を仰ぎたいのは山々だが、そうすることは左馬介の方から出来ない。左馬介は自らを叱責した。師に頼っている自分が情けなかったのである。よく考えれば、師の幻妙斎に会えたとして、どのようになるというのか…。剣を手にして、振るのは自分なのである。師が振る訳ではないのだ。師から、もしも『…とせよ』と指南を受けたとしても、体が覚えなければ、身には、つかないのだ。


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