水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

残月剣 -秘抄- 《剣聖②》第十六回

2009年12月18日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《剣聖②》第十六回
「ああ…どうも。お心遣い、痛み入ります」
「蟹谷様がお見えになる迄、ふた時以上ございますから、お部屋で
ごゆるりとなさいまし」
 物腰柔らかく、そうとまで勧められては、左馬介も次第に、そうし
ようか…と思うに至った。
「有り難う存知ます」
 直ぐには立たず、喜平にそうとだけ礼を云うと、左馬介は未だ座
したままの姿勢で動かなかった。
「今日、来られることをよく御存知で…」
「はあ、飽く迄も私の感でしたが、小僧さんに五の日は来られると
お聞きし、まぐれも当たるものだと…」
「へえ、さようで…」
 それ以上は諄(くど)く訊かず、左馬介へ軽く一礼すると、喜平は
店内へと戻っていった。
 左馬介が喜平の云った部屋で待とう…と、床机を立ったのは、半時ばかり経った頃である。とは云っても、蟹谷が千鳥屋へ顔を出すと思われる昼過ぎ迄は、未だふた時、弱はあった。左馬介は一端、店の入口へと戻り、雪駄を脱ぐと踏み板から敷居へと上がった。


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